どんな君でも好きだよ
ある日突然、彼女が小さくなった。
最初からそれ程高かったわけでもなかった身長が小学生くらいに縮んでいて、顔付きも随分幼くなっている。
「えーと……榛名、また大きくなった?」
「いや、明らかにオマエが縮んでんだろ」
「だって、嘘。私なんもしてないよ?変なもの食べたりしないし」
ちなみに、当たり前だが、オレ達は随分動揺していた。
彼女に至っては、昨夜のまま全裸なのにも気付かないくらい動揺していたりする。
それでも、もちろん小学生に欲情するわけもなく、オレはそんな彼女をただ呆然と眺めていた。
「え、なんで、ていうか私仕事どうすんの。」
「身体がソレじゃ、しばらく休むしかねーだろ」
「ただでさえ金欠なのに!?」
ぶつくさ文句を言いつつ、彼女は職場に、休むと連絡を入れるために携帯を取り出す。
体調が悪そうな演技をし、電話を終えた彼女は、見た目を除いてはオレの知る彼女となんら変わらないようだ。
「つーか、オマエ服どうすんの?」
「え?あ!」
慌てて無い胸を隠すが、彼女自身も隠す必要がないと思ったのか、微妙な表情を浮かべる。
そして、とりあえずとでもいうように、布団を手繰り寄せ、身体を隠すようにくるまると、自分のGパンに入ったいた財布から数枚のお札を取り出し、俺に差し出した。
「買ってきて」
「なんでオレが」
「榛名は秋丸に私の裸見られてもいいんだ。それなら私秋丸呼んで事情説明して服買ってきてもらうけど?」
「行ってきてやってもいいけど、どんなの買ってくりゃあいいわけ?子供服なんかわかんねっつの」
「んー、とりあえず、あんま可愛すぎないTシャツと、ズボンと、あと重要なのがした」
「下着は絶対買わねー」
「なぜ!こんな体型なのに、いつもの履けというの!?」
「履けばいいだろ」
ムッとしたように彼女は脱ぎ捨てられていた自分の下着を拾い上げ、身に付ける。もちろん上は付けなかったが。
そして、布団にくるまったままもぞもぞと自分のタンスに移動し、自分の黒いTシャツを取り出し、素早くそれに着替えた。
「スカートみたいだけど首のとこがあきすぎ。これで外出はやっぱり無理だね」
「いや、行けんだろ。」
「今幼女狙った変質者とかもいるんだよ!?一人で出歩いたらなにをされるか……!」
「オマエも来ンなら一緒に行ってやるっつの。」
「え、下着も買うけど大丈夫?」
「一人でガキの下着買うのはハードルたけーんだよ」
オレも昨夜脱いだ服に着替え、布団から立ち上がる。立ち上がってみると、尚更彼女が小さく見えた。
「知り合いに会ったら、榛名どう思われるかなー。」
そんなことを言いながら彼女は玄関へ向かう。そして、少しだけ悩み、靴箱からサンダルを取り出して、それを履いた。ピッタリとは言えずとも、履き心地には、まあ納得したようだ。
「そう思うなら、お兄ちゃんとか呼べっつの。親戚だって紹介してやるから」
「秋丸に会ったら一発で嘘がバレるけどね、おにーちゃん?」
ガキのようななりをしている癖に、なぜこんなに厭らしく笑えるのか。
彼女がおかしいのか、オレが変態なのかはわからないが、なんにせよ、欲情するわけがないという前提は撤回することにして、玄関の段差に腰をかけ、自分の運動靴を履く。
「てかさ、金欠なのに、その上仕事出来ないのにこんなことに散財なんて最悪だよ本当」
「つか元に戻れンのかよ、それ」
「そういう最もなこと言わないでよ。私だって心配してんだから。とりあえず、身体が元に戻るまでお世話よろしくね。」
「なんでオレが」
「わかったよ。秋丸に事情話して秋丸に」
「オレが世話してやっから。秋丸に頼るな」
玄関のドアノブを開けることすらやりにくそうにしている彼女には、確かに世話係が必要かもしれない。
それにしてもだ。道中、肩からずり落ちそうになる服を直す彼女の仕草に欲情しかけたオレは、やはりロリコンなのだろうか。だとしたら、彼女が元に戻るまで、オレは彼女に何もしないでいられるのだろうか。
なんというか、危ない扉を開いてしまいそうだ。
2010/09/09