愛らしいね
「愛してるって言って」
「次はなんの影響受けたんだよオマエ」
榛名元希は私の幼なじみだ。ちなみに3つ年下の。
身長が高くて、目つきが高圧的で、言動が偉そうで、およそ年下に見えないが、それでも榛名は私より3つ年下なのである。
「ラノベ」
「影響受けた自覚あんのかよ」
「影響受けたというか、まあ、影響受けたんだけど。不思議なんだよ。愛してるの一言でときめける女の子ってやつがね。ほら言ってみてよ」
「秋丸に言ってもらえ」
「男の子の方のキャラクターが俺様だったんよ」
「じゃ、隆也に言ってもらえ」
「女の子は男の子の幼なじみだったんよ」
全部本当のことである。ちなみに女の子(高校生一年生)は男の子より年上で、男の子(小学生六年生)のその台詞は、精一杯背伸びした台詞だった。みたいな描写があった。
いや、別に榛名を小学生扱いしてるわけではなくて。
というか、小学生にときめく高校生ってある意味異常だよね。ときめくの意味が、可愛いならわかるけど、かっこいいはないでしょ。
小六の知り合いといえば、私の弟なわけだが、流石に弟は無いし、なにより私とは7、8つ違う。順序がおかしい?いや、私にとって、弟だからなんてのは大した障害ではない。榛名だって十分弟みたいなものなのだから。
とにかく、なのでまあ、私は、3つ年下の榛名に頼んでみたのだ。
年齢的には隆也が適任だが、隆也は"弟のように思っていた幼なじみ"ではない。正直、恭平に関しては弟のように感じた事はなかったりする。あいつはたまに私より大人だ。
「なんでオレが言わなきゃなんねーンだよ!」
「榛名さ、私に言えないってことは、いざという時好きな子に言えないって事だよ?練習だと思ってさあ」
「つーか普通に好きだとかじゃダメなのかよ?」
「いやいや、なるべくラノベの状況に近付けたくてね」
「意味わかんねー」
「ていうか榛名。意味わかんねーとかあんたよく使うじゃん?弟にうつっちゃったんですけど?つか全体的に弟があんたの影響うけてるんですけど?」
「は?知るかっつの。変なラノベの影響受けるよりマシだろ」
「は?別にラノベの影響受けてないし」
「さっきと言ってっこと違うじゃねえか」
「私は、榛名にただ愛してるって言って欲しかったんですー」
嘘だけどね。ムキになっただけなんだけどね。
嘘嘘ジョーダン。と言おうと口を開きかけた。が、榛名があまりにも面白い顔をしていたので、私の動作は思考から何からぴたりと止まってしまった。
「は?」
なんで、本気にすんのかな。
やっと頭に浮かんだのはその言葉。
なんで、本気にすんのかな。そんな顔されたら困るじゃないか。今更嘘なんて言えないじゃないか。
榛名の顔は、真っ赤だ。これで嘘なんて言ったら、怒るだろうし、傷付くだろう。
榛名が私を好きであろうが、そうでなかろうが。きっと。
「あ、あの、はる」
「好きだよ」
「え、あの」
「愛してるっつの。オマエがオレ以外のヤツに、そんなこと言われんのはホントは、」
堰を切ったように話し出した榛名は、何故だか半分泣きそうな顔をしている。ラノベの子と同じだとか、私は思った。
しかしやっぱり可愛いだけだった。かっこいいなんて思えやしない。
でもときめきはした。ときめいてしまった。私は、そこでようやく理解した。
「私だって、榛名のこと好きだよ。」
いつの間にか、とか、思わず、とかではなく、私はちゃんと意識的に告げた。
同情とか、罪悪感からでもない。私は、今この瞬間。可愛い榛名に惚れたのだと思う。多分、あのヒロインもこういう感じだったのだろう。
次の瞬間、榛名はいきなり私を抱き寄せた。目の前にいる彼は私の記憶の中にいる榛名よりずっと男らしくなっているようで、うっかりまたときめいてしまう。
私が成長した分彼も成長したのか。それを今更実感した。
「榛名ってば、かっこよくなったね。」
「は?いきなりなんだっつの。イミわかんねー」
まあ、私のこんな台詞でまた顔真っ赤にしちゃう内は、かっこいいってより、可愛いままなんだけどね。
2010/09/08
本当は今年6月に書きました。私は結局榛名をなんだと思ってるんだ。