曖昧ダーリン
「神威さん!」
「なんだい?怒ったみたいな顔して」
「みたいなじゃなく怒ってんですよ!」
神威は、我が天人高校三年(ちなみに一年以上留年してる)の番長である。
性格は至って悪く、にこりという可愛らしい笑顔の中に、凶悪な殺意が見え隠れしているという、良く言えばユニークなお人だ。
ちなみに私はそんな彼のパシり兼彼女だったりする。たまに後者を忘れるが。
さて、ここで私が何を怒っているのかを説明しようか。私が怒っている理由は至って簡単。神威が私の弁当を盗み食いしたからである。
今日の弁当は私の好物が沢山入っていて、食べるのをかなり楽しみにしていたというのに、神威が食べてしまったのである。
四時間目の体育の授業中、私がグラウンドに出ていた隙に、私の弁当箱は空になっていた。こんなことする人間は神威以外いるわけがない。
「私のお弁当食べましたよね?食べたんだよな?ああ?」
「ああ。あの冷凍食品だらけの弁当?まずかったから捨てたよ。」
「死ね!この罰当たりが!」
「ん?何か言ったかい?」
そう微笑みながら、神威は私の顎に手を添えた。なにかおかしい気がする。この流れでそれは無いだろ。だって私怒ってて、弁当で、つまり、ようするに。
唇が重なった。
「って、なにすんだバカ!」
「うるさい女はこうすると黙るって昔から言うだろ?」
「言いません!」
「弁当取られたくないなら、俺の分の弁当も作ってきなよ。もちろん冷凍食品は無しで。」
お願いでも、頼みでもないその命令に、私は頷くことしか出来なかった。
だって笑顔が怖いんだもん。なんていうのは言い訳以外のなんでもなくて、つまり私は、本当は神威にも弁当を作ってあげたいとつくづく思っていたのである。
普段の神威の昼ご飯は、いつもコンビニとかで買って来たのであろう大量のパンで、凄く身体に悪そうだった。
彼の身体は、陽に弱かったりと意外と華奢なところもあるので、私はとても心配していたわけだ。
「身体に良いやつ作ってね。」
「いつもコンビニのパンの人には言われたくないです。」
「なに言ってるんだい?いつも阿伏兎の弁当も食べてるよ。」
「じゃあ私の弁当は阿伏兎さんの弁当の代わりですか。」
というか阿伏兎さん、もしかして弁当男子だったのか。微妙に似合う。今度料理教えてもらおうかな。
「お前が弁当作ってくれるなら、コンビニのパンは食べないよ。もちろん阿伏兎の弁当もね。」
そんな言葉が凄く嬉しかったなんて、そんなの死んでも言ってやらない。それでも紅潮する頬は隠せなくて、神威はそんな私を見て、可愛いね。と微笑んだ。
そっか、私ちゃんと神威の彼女だったんだなと思えて、安心する。なるほど、私は愛されているようだ。
2010/09/07