16になる君へ/坂田


「誕生日おめっとさん」

「言い方が乱雑」

「ばっかオメー、新八になんか1日遅れで言ったからな。当日に言ってやったんだからありがたく思えコノヤロー」

そう言った銀ちゃんはソファーに腰をかけ、お菓子を食べながら、こちらに一瞥もくれることなくテレビを見ていた。

テレビを見てみれば、結野アナが笑顔で天気を告げている。私は思い切り不服そんな顔をして、向かい側に座ってやったのだが、彼はそれに気付く様子もない。

「銀ちゃん。私帰るよ」

「まあ待てって、そろそろ新八と神楽が糖分持って帰ってくっから。お前がいなきゃ俺がケーキにありつけねェだろーが。」

「うん、やっぱ帰るね」

イライラに耐えられそうになかったので、私は座ったばかりのソファーから立ち上がり、そう宣言する。

「待てっておま、」

そう言って立ち上がりかけた銀ちゃんの声を遮るように、ゴッ。という鈍い音が聞こえた。

だらしのない格好をしてテレビを見ていたせいで、慌てて立ち上がろうとした際、テーブルにすねをぶつけたらしい。

テレビでは結野アナが、見計らったかのように、天秤座で銀髪で天然パーマの男性は、テーブルの角に気をつけましょうと告げているが、銀ちゃんは痛さでそれどころではないようだ。情けないことに、大の男が涙目になっている。

私にはそれがとても哀れで可哀想な光景に見えたので、仕方なく玄関に向けていた足を止めた。

「……大丈夫?」

「大丈夫だ、だから帰るな、待て。」

「大丈夫なら帰る。じゃあね」

「やっぱ大丈夫じゃねェ!だからちょっと待て!あのなァ、お前俺がこの日を一体どれだけ待ち望んだかわかる?お前がここで帰ったら意味ねェんだよ。だから待っ」

「わかるよ。ケーキならどうぞ三人で食べて。じゃあね」

「そうじゃねェエエエエ!ちょ、マジで待って、帰らないで!足の痛みが引くまででいいから!百円あげるから!」

百円に惹かれた私は、もう一度玄関に向けかけていた足を止める。そして銀ちゃんに数歩近付き、右手を差し出した。

「え、なに」

「百円頂戴。待っててあげるから」

そう私が言うと、銀ちゃんは渋々と、ズボンのポケットに手を突っ込み、そこから取り出した物を私の手に乗せる。

百円ではなかった。箱だった。ドラマとかでしか見たことがない、指輪が入ってそうな箱で、私は首を傾げる。

「なに、これ」

「今日の為に俺が綿密にたてた計画がメチャクチャだコノヤロー。よってお前にはイエス以外の答えを言う権利は与えねーから。オッケー?」

「だからなにこれ」

「開けてみろよ。」

箱をゆっくりと開けば、そこには小さな宝石がキラキラと輝く可愛らしい指輪が入っていた。私は思わず息を呑む。

「……これ高かったでしょ。どうしたのこれ。家賃でさえちゃんと払えてない癖に。」

「酒の勢いで事情話したら、ババァが色々強引に仕事回してくれてよ。まあ、そういう指輪だ。心して受け取れ。つーか早く答えを言え。」

「答えって、イエス以外に言う権利私にはないんでしょ?」

「そりゃそう言ったけどおま」

そう言いかけた銀ちゃんに、私はいきおいよく抱き付いた。バランスを崩して倒れた銀ちゃんが、テーブルの角に頭をぶつけて失神したが、私にはそんなこと関係ない。寧ろ恥ずかしくなくていいくらいだ。

銀ちゃんが起きたら、仕方ないからちゃんと答えを言ってあげよう。もちろん銀ちゃんにも言うべきことをはっきり言ってもらうつもりだが。



2010/08/27
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