関係に名前をつけてみよう



榛名だけは大事だった。
他のことは全部どうなってもいいし、どうだって構わないけど、榛名だけは別だった。

そばに居て欲しくて、嫌われるのが怖い。
そんな相手、榛名しかいない。

でも素直に言えるわけもなく、付かず離れずな位置で早数年。
いい大人が、中高生みたいに、好きです付き合ってくださいなんて言えるわけもなく。

そんなイベント高校の頃に済ませておけば良かった。なんて。そんなことを思いながら今日も彼と遊ぶのであった。


「爆死した。というかガチャ禁を失敗した」

「オマエ、相変わらず我慢できないやつだよなー」

そのくせ、我慢しないで言って仕舞えばいいことを彼には言えてないわけだけど。
コンスタントに遊ぶ約束は取り付けられてるし、周りからは「どう見ても付き合ってるように見える」なんて言われるけれど。
恋人らしいことは何一つしたことないのであった。手すら繋いでない。

「つーか、人と遊んでる時までゲームなんかしてっから彼氏できねーンじゃねえの。早く映画くらい付き合ってくれるヤツ探せっつの」

「迷惑なら誘わないで一人で行くけど」

「誘うのが迷惑っつってンじゃねーよ。誘ってきたならゲームくらい我慢しろよって話だろ」

「スタミナ制のゲームだからね。スタミナなくなるまでは我慢して欲しい」

「ガチャはスタミナ制じゃないだろ」

「いや、まあそうなんだけどさ」

ゲームならまあ、スマホで両手塞がってても違和感はないはずだし。
ポップコーンか何かでも買えば、スマホは持たなくて済むのだけれど、手がフリーになってるとこう、ポケットに手を突っ込みたくなるわけだが、この男はそれに対してよくわからないけど転んだ時どうするんだとか言って怒るのだ。

まあ、スマホ持ってても転んだ時危ないんだけども。

「ちなみに榛名はこの映画観た?」

「いや、観てないから来たに決まってンだろ。観てたらサスガに誘われてもこないっつの」

「マジか。わたし二回目なんだけど、同じの二回も観る人あんまいないのかな」

でもまあそれもそうかもしれない。わたしも二回観るのなんてなかなか滅多にない話だ。
これは相当気に入ったからもう一回、今度は誰か感想が言える人と一緒に。と思って榛名を誘ってきたわけだけど。

榛名も前にこれ気になるって言ってたし、もう上映期間も終わりかけだし、とっくに見ててもおかしくない気もしたのだが。

そんなことを考えていると、開場のアナウンスが流れたので、ポップコーンとドリンクを買って、シアター内へ移動する。

二度目とは言え好きな作品だ。席についてから、始まるのが待ち遠しいやらなんやらで、楽しすぎてついつい顔が笑顔になってしまった。
そんなわたしを見ていたらしく、榛名が笑うものだから、ムカついたので文句を言ってやれば、悪い悪いと謝りながら頭を撫でてくる。子供扱いされている気分である。

「あのね、人様の頭をそう易々と」

榛名を睨みつけながら、わたしがそう言いかけると、時間になったのか明かりが消え、辺りが暗くなった。
始まるとなれば当然喋ったら迷惑になるわけで、言葉を途中で飲み込むわたし。
いや、それもそうだったんだけど。

暗くなったのは照明が落ちたせいだし、言葉を途中で止めたのも、映画が始まるからだったはずなんだけど。

大きなスクリーンが見えなくなるくらいに視界を遮って、唇に触れたそれは、せっかくの映画に集中できなくするのには十分だった。



え、なに。
これ何が起きたの?




「……はあ」

「……?」

「いやあ、誰かさんのせいで全く頭に入ってこなかったわ〜」

映画が終わり、呆然としたまま映画館を出て、まず真っ先にそう恨み言を言ってやった。
何かの間違いかもしれないし。とりあえずこのセリフがベストだろう。なんの間違いかはわからないけど。

「それなら夜の回もう一回観るか?」

「いや、そうじゃないでしょ! あれはどういうつもりなのか聞いてるの!」

「はあ? オレが悪いみたいに言ってっけど、オマエが告白してこねーのが悪いだろどう考えても」

「はあ?」

と言いつつ顔を逸らす。

いやいや、なんかバレてるやんけ。

顔に出ないようにしてたつもりだったんだけど。いつも緊張しているのだって、ゲームとかして誤魔化してたはずなんだけど……?

「で、もう一回観るなら奢ってやるけどどうすんだよ」

「いや、あんたさっき同じの二回は観ないみたいなこと言ってなかったっけ? いいよ別に無理しなくても」

「二回も三回も同じだっつの。オマエ本当にオレがこれ観てないと思ってたわけ?」

「はあ? そもそもさっきから言いたいことがよくわからないんだけど」

「オレはとっくにオマエと付き合ってるつもりで出掛けてたのにも関わらず、オマエが他のやつに付き合ってるわけじゃないって言ってるのこないだ知ったんだよ。で、そのタイミングで映画の誘いが来たからはっきりさせてやろうと思って来たんだっつの」

「それで何故あんなことを」

「キスすらしてないし、別に付き合ってないでしょ。って言ったンだろ」

「言ったけどさあ……。いや、細かい内容はよく覚えてないから、多分言ったんだろうけどさ……」

普通、そういう解釈になるか?

いやまあ、別に嫌だったとかそういうのではないし。彼がこんな風になってるということは、言葉にするのを渋ってきた自分の責任もあるとは思うのだけど。

いかんせん急すぎるし。そもそも、いつも誘うのこっちからだし。そんなつもりだとは思わないに決まってるじゃないか。

その一回目だって誰と観に行ったんだよ。ってめんどくさい女の子になってしまいそうになる。

「ていうか、それならそっちから告白してくれたらよかったじゃん」

「オレはとっくに付き合ってるつもりだったからな」

「何故そんなつもりに……ていうかそんなそぶりあったっけ」

「念のため今日も、そんなんだから彼氏出来ないとか言ってみて様子見てやったのに、なんの反応もしねーしな」

「わたしはあの言葉で、相変わらず全然こっちに興味ないんだなーと思ったんですが……」

「そもそも何度も遅くまで遊ぶ流れにしようとしてたのに、全部断ってさっさと帰ってたのオマエだしな」

「わたしなんかのために時間使わせて嫌われたくなかったし……」

「で、今日はどうすンだよ? もう一回観るのか観ないのか……」

「観る。奢ってくれるなら断る理由ないし。なにやら彼氏らしい人のお誘いですし」

カバンに入れっぱなしのスマホはそのままで。ポケットに手を入れないように、手を差し出してみる。

「もしかして、スマホいじるなとかポケットに手を入れるなとかいうのって、実は手を繋ぎたかったとか?」

「……恋人らしいことしてないとかオマエが人に言ってんの、基本はオマエの責任だからな」

「人にとやかく言いますが、榛名も大概だよね」






2020/02/14
バレンタインネタ書きたかったけど絡ませられませんでした
もう学生時代が思い出せない……
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -