きみはだれのもの?


「病みそう」

「いつものことだな」

はるなもときくんはわたしのかれしである。
その高い身長も、おっきな手も、目つきの悪いお顔も全部わたしのものなのである。

でもそれは周りに隠している。

なんでかっていうと、女子のやっかみが怖いから。

何を隠そう、わたしは半強制的にはるなくんはみんなのもの同盟に入れられてしまっているのだ。

そんな同盟に所属してるのに、はるなくんはわたしのですよーなんて言ったらどんな目にあうかわかったもんじゃないし、そんな同盟を抜けるのにどんな目にあったものかわからないので、とりあえず内緒にしているわけだ。

ちなみに、別に「好きになるつもりなかったのに向こうから告白されちゃった!」とかではなく、がっつりこっちから、抜け駆け上等で告白しにいきました。

「割と大変なんだよ。そのはるなくんはみんなのもの同盟っていうのも。独占欲強めなわたしが君のいいところを他の女子が言ってるのを聞かなきゃならないんだぞ。ぶん殴りたくなる」

「学校内でそんなこと言っていいわけ? オマエこの前、どこであの子達が聞いてるかわからないから学校内では二人きりでいる時も恋人らしい会話はしてはいけない! とか無茶苦茶言ってた気がすっけど」

「もはやそんな気を使えるほどの余裕、わたしには残っていないよ。何が楽しくて「はるなくんてセックスの時、絶対こうだよねー」みたいな話聞かなきゃならないんだ。まじ殴りたい」

「本人の前で話す内容じゃねーな」

「嫌がらせのために言ってるんだよ。あの女どもはそんな話をする下品な子達だから、絶対になびいちゃダメだよってね」

「オマエがいンのになびくわけねーだろ」

人気のない空き教室。まだ7月にもなっていないというのに、今日は天気が良くそれなりに暑いのだが、日陰に位置するこの教室はそれなりに涼しさを保っている。

だというのに、はるなくんの嬉しい言葉でわたしの体温は上がっちゃったりして、これは本当にどんな夢だよってくらい、ふわふわした気持ちになって。

でもまた、この教室をでたら、あの同盟で最悪な話を聞かされるのだろう。

現実なんだし、醒めない夢をみたいものだ。

「つーか、そんなストレス溜めるくらいなら言えばいいだろ」

「それでもハブられるの怖いんですよ。女子って陰湿だし」

「あと、その手のストレス溜めてるのオマエだけだと思ったら大間違いだからな」

「? どういうこと?」

「オマエ自覚ねえかもしれねーけど、あわよくばってオマエのこと狙ってるヤツ結構多いンだよ」

「自覚あるけど、何か問題ある? わたしその、あわよくばが現実味を帯びないようにある程度はきちんと牽制してるつもりだし、心配することないよ。それにわたしが好きな人ははるなくんだしね」

「でも、ちゃんとオレの彼女って言わねー限り、オレはオマエの……」

「オマエの? なに?」

「いや、なんでも」

「なくないでしょ。どうしたの?」

「……夏服になってオマエの下着が透けてるだのって話聞かされ続ける」

「まじか。そんな透けてるのか」

「たまにな。たまに」

「うーん、たしかにわたしもそういう目で見られてるのはちょっと嫌だなあ。たしかに彼氏持ちを公言した方が、変なことにはならないのかも」

「つーか、オマエそれこそ男友達多いンだから、ベツに女子にハブられてもなんとかなンだろ」

「彼氏いるのに他の男媚びてるぅー! さいてー! ってなるだけだが?」

「あー……」

「しかも告白したのわたしからでしょ? それ言わされたらもう袋叩きだよ。殺されちゃうよ」

「好きになったのはオレンが先だけどな」

「なにを根拠に」

「オマエがオレんこと好きになったのは結構最近だろ。春大の浦総との試合ンとき、女子に連れてこられてたヤツ」

「うん、一ヶ月半くらい前のあれだね。同盟員の子がわたしを引きずって連れて行って、たまたまはるなくんに話しかけられたやつ」

「たまたまだと思ってるあたりが最高に頭悪いよな」

「いやでも、うちの学校見に来てる子少ないから云々カンヌンとかいってたじゃん。わたしの名前も知らなかったじゃん」

「オマエが忘れてっから仕方なくそう言ったンだっつの」

「忘れてる?」

「オマエ、一年の時の体育、うちのクラスと合同だったろ」

「でも男子と女子は一緒にやらないじゃん」

「体育館半分ずつ男子と女子で使ってた時に、オマエの投げたバスケットボールがオレの肩に思い切り当たった」

「マジか。ごめんね。でも怪我はしてなかったってことだよね。してたらめちゃくちゃ恨まれてる気がするし」

「そんときも謝ってたしな。まあ、オレが睨んだせいもあるかもしんねーけど、すげえあわあわしてた」

「睨んだのか」

「で、なにを思ったのかお詫びになんでもするっつったのに名前も名乗らなかった」

「多分ジャージに書いてあるって思ってたんだろうね。ちょっと思い出したけど、それのどこに好きになる要素が」

「誰もそん時惚れたとは言ってねーだろ。んで、なにしてもらうか考えながら目で追ってたら、話しかけるのが照れくさくなるレベルで好きになってた」

「目で追われていた……?」

「マネージャー少なかったから、マネージャーでも頼みたかったんだけどな。そういうの出来るやつなのかもわかんねーし、その辺見てたンだよ」

「マネージャーやった方がいいの?」

「いや、もはやほぼ男しかいねー野球部に入れたいとすら思わねー」

「はるなくんもわたしと同じくらい独占欲強いね!」

「で、だ。そんな相手に告白してもらって有頂天だったっつーのに、内緒にしてくれだの言われて割とテンションどうしたらいいかわかってねーンだけど、オマエどうしてもバラしたくねえの?」

「嫌って言ったらここでそのなんでもいうこと聞かせる権利使うつもりなんでしょ。選択肢ないじゃない」

「オマエがマジで嫌なら我慢するけど、ストレス溜めるくらいなら言った方がいいと思うしな。あとフツーに教室でいちゃつきたいよな」

「それはフツーじゃないから却下」

「わざわざ恋人になりましたって報告するよりわかりやすくいちゃついてやった方がいいだろ。ンじゃ早速教室行くぞ」

「ちょっ、手引っ張らないでよっ……」

思えば。

その話を聞く限り、はるなくんの気持ちはおそらく女子にダダ漏れだったのであろう。

だから、はるなくんに全く興味のないわたしを同盟に入れるためにわざわざ大会に連れて行き、強引に加入させて、万が一にもそうならないようにしたのだと思う。

だとしたら、わたしが「隠せば平気」なんて気持ちで告白しちゃうなんて思わず、そんな作戦をとったあの子達が悪いんじゃないか。

彼がもともとわたしに気があるのを知っていたのであれば、どうしたって関わらせるべきではなかったのだ。

はるなくんが教室のドアを開けば、もう昼休みも終わりかけなので、大半の生徒が戻って来ていた。

殆どの女子は察したような顔をしている。というか、男子も察したような顔をしている。

はるなくん、君さ、からかわれてたんだよ。わたしの下着の話とか、君がわたしに気があるのバレてたからあえてしてきてたんだよたぶん。

「で、いちゃつくってどうするの?」

とりあえず聞いてあげれば、なにも考えてなかったおばかなダーリンは、どうすっかなー。とでもいうように頭をかいた。

「こいつオレの彼女になったから、手ェだすなよ」

結局恋人になりました。って報告になっちゃってるじゃん。

女子からの責めるような視線を肌にチクチクと感じながらため息を吐く。
これはたぶん放課後呼び出されるやつだ。
漫画じゃないんだからやめてくれよほんと。

でもまあ。



「というわけで、はるなくんはみんなのものじゃなくてわたしのものなのでよろしくお願いしますね」



わたしだって悪い気はしてないんだけどね。




2019/06/29
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