ぶっつけ本番のような


告白の練習を当人相手にすることになった、バカなわたしの話を聞いていただきたい。

テスト期間中に、テスト勉強しないで図書室で本を読んでいたわたしが悪かったんだろうけど、どう考えても偶然に偶然が重なりすぎたというか。

人気がなかったからちょっと呟いただけなのだ。

わたしもこんな風に、さらっと告白できたらなーって。

それをなにも知らない当人が聞いてただけの話で。

「お気持ちは嬉しいけど、榛名相手じゃ練習にならないよ」

「つっても、本人相手にするわけにはいかねーだろ。だからオレ相手で我慢しろよ、黙って聞いててやるし」

いやそうじゃねえよ。お前相手が本人相手になっちゃうから練習にならねえって言ってんだよ。とは言うわけにもいかず。

榛名はこう言う時しつこいので、とりあえずサクッと一回やって、ハイ終わり。ってするしかないのはわたしもわかってるんだけど。

かといって、サクッと一回やれるなら、とっくに本番の一回だってやれてるわけで。

「んじゃあとりあえず一回やるけど……」

「まずオマエ、告白する時くらい人の目見ろよ」

「えぇ!? そこまで練習しなきゃいけないの?」

「練習ですらうまくやれなかったことが本番で上手くやれるわけねーだろ」

「正論吐くじゃないの榛名のくせに。しょうがないな……」

と、とりあえず目を合わせてみるが、ドキッとしてしまう。
いつもは普通に目を合わせても話せるんだけどな、一応告白する前というところで緊張してしまってるのだろうか。

「じゃあ言うけど、わたしあなたのことが……」

「そこは名前で言わないとダメだろ」

「はあ? そしたらあんたに好きな人バレるでしょ?」

「つっても、オマエ人のことアナタなんて言うキャラじゃねーだろ。本番では名前いれンに決まってんだから、とりあえずオレの名前いれておけ。そいつのことは苗字と名前どっちで呼んでんだよ?」

「苗字だけど」

「そんならいつもと変わんねーし、榛名って入れておきゃ……あー、でもいつもと違う雰囲気を出すために、名前で呼ぶのもありだな。オマエ名前で呼んでみろよ」

「なんでそんなこと」

「なんのための練習だよ? 本番うまくやるためだろ。成功率上げるために色々考えてやってんだっつの」

って言われても、あんたがわたしの告白に乗り気な時点で成功率だだ下がりなんですけど。

こっちはその時点でテンション下がってるってのにほんと最悪。

「じゃあとりあえずあんたの名前にするけど……よく聞いてね。わたし、は……じゃなかった。元希のこと……」

「カット」

「なんの撮影だよ。なんで止めるの」

「サラッとした告白が目標ならミスった時点でアウトだろ。もう一回」

「はいはい。でもとりあえず次は最後まで言わせなさいよ。最後まで聞いて、それで評価して、いい感じだと思ったらそれで終わりにして。あんたテスト勉強に来てるんでしょ」

「練習付き合ってやってんだし、オマエ数学と現国教えろよ」

「あんたが強引に練習させてんのになんで……まあいいけど」

それについては断る理由もないけれど。
好きなものは好きなのだから仕方ない。

どんなに勝率が低くても、マメに点数は上げておきたいのだ。今がたとえマイナスの状態っぽかったとしても。

「じゃあ、その、元希?」

「お、おう」

「わたし、その、も……元希のこと」

「ストップ」

「おい、止めるなっていっただろ」

「いや、なんか、待て」

「ちょっとどもっただけでしょ。流石にこれくらいでやり直しって……」

「いやそうじゃねえよ! 誰もやり直しで止めたわけじゃねえっつの!」

「じゃあなんで……」

「想像以上にアレだったんだよ」

「アレってなによ。やっぱ早く現国やったほうがいいんじゃない? ボキャブラリーがやばいよ」

「……想像以上に可愛かった」

「はぁ!?」

今なんて言ったこいつ。
そんなこと言われたら流石に照れてしまうというか、おそらくここまでも少しは紅潮していたであろう顔にさらに熱が集まるのを感じた。

「ばっ、何いきなり……」

「基本オレからいう予定だったから、練習でも告られる側になってみたくてやらせるつもりだったんだけどな」

「は? それ、どういう」

「だってオマエの好きなヤツ、オレだろ」

「な……なんで知って! ……あ」

「気付かないわけねーだろ。オマエ、授業中とかスッゲェ目が合うの偶然だと思ってたわけ?」

「ていうか、気のせいだと思ってた」

「さっき目を合わせろっつった時、授業中目が合った時と同じ顔してて笑えたけどな」

「なにそれ、どんな顔だ……」

「それはともかく、オマエちょっとこっち見ろ」

恥ずかしくて微妙に目をそらしていたら両手で顔を掴まれて強引に目を合わせられた。ちょっと痛かった。

しかしそれより少しばかり近すぎる気がする顔にドキドキしてしまう。

「好きだ」

「は、はい」

「返事は?」

「よ、よろしくお願いします」

流石に榛名も恥ずかしくなったのか、少し目をそらしたと思えば今度は抱きしめられた。

なるほどこれなら顔は見えない。でももっと恥ずかしい気がするのはわたしだけだろうか。

「やっぱオマエからも聞きたいんだけど」

「……何を」

「結局好きって言ってくれてねーし」

「止めたのあんたでしょ。……わたしも榛名のこと好き」

「名前で呼べよ」

「やだよ! 恥ずかしい!」

「さっきのスゲー可愛かったのにな」

「わかったわよ、呼べばいいんでしょ呼べば!」

この後、勉強するかと言えばもちろんそんなわけがなく。
ただひたすら図書室が閉まるまでイチャイチャしていたのはいうまでもない。

練習は結局練習にならなかったけれど、本番も結局することがなかったのでよしとしよう。

「とりあえず明日はオレンちでテスト勉強な」

「えっ」

「現国と数学教える約束だろ」

「ま、まあそうだけど」

「親もいるし、変なことしねーから安心しろ」

「親御さんいるの!? いきなり会わなきゃいけないの?」

「いない方がいいなら明後日だな。勉強できる気がしねーけど」

「明日でいいです」




2018/06/27
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