今日とは言わず、明日でも


「榛名?」

ずっと前から好きだった。
私は出会った時から彼が好きで、それは現在まで変わっていない。
かと言って、それが報われるかと言ったらそれはまた別の話なのだ。
出会ったときから、榛名のそばには、いつだってあの子がいた。

「……またあの子のこと考えてるのか」

「またって、そんなには考えてねーよ」

「とりあえず今考えていたことについては言い訳しないんだね」

駅前の喫茶店。せっかくいい感じのお店で待ち合わせをしたのに、彼の態度はまさに心ここに在らずといった感じで。
全くどうしたものだろう。今日の時間は私が貰ったはずなのに。私に権利があるはずなのに。
それにその上、彼女は榛名のことなんて見ていやしないのに。

「誕生日に好きな子に会えなくて残念なのはわかるけどさ」

「うるせーな」

「あの子はあのどうしようもない先輩のことがいつまで経っても好きなんだから仕方ないじゃないの」

「わかってるっつの。オマエ、誕生日に喧嘩売りに来たわけ?」

「自分を売り込みに来たんだよ。愛するより愛された方がいいんじゃないかって」

「セールストーク下手すぎンだろ」

「知ってる」

「あいつもセールストーク下手なんだよな。だから先輩に相手にされねーの」

「まあでも、先輩も憎からず思ってるから、君の誕生日に当てつけみたいにあの子を映画に誘うんでしょう。めんどくさい人だよね、あの人も」

とりあえず、と、誕生日プレゼントを差し出してみれば、サンキュー。と彼は受け取ってくれた。
先輩はどうしてあの子と付き合わないのだろう。
そしたら、榛名にあの子を取られれ心配なんてしなくて済むし、こんな当てつけしなくて済むのに。

「何コレ」

「しおりです。本を読みましょう榛名くん」

「バカにしてンだろオマエ。ベツに本くらい普通に読むっつの」

「雑誌とか漫画じゃなく?」

「読んでンの知っててプレゼントしてんだろ。嫌なヤツだよな、オマエ」

「あの子に勧められた本読んでるのなんて、流石になんかムカつくじゃないの。いつまで経ってもちゃんとしたしおり使わないから気になってたのよ」

なんて建前だけど。ちょっとバカにしたくなっただけだ。

あの子が勧める本を読む彼が、本を読むのをやめる時くらい、私のことを思い出してくれないかなんて。

本の続きを読み始める時に私の顔が過ればいいのに、なんて。

思ってないことはないけど、もしそうやって思い出してくれるなら私はそれで十分なのだから。

「……あの子はいつ告白するんだろうね」

「知らね。あいつの勧めてくる話も、全然くっつかねえ話ばっかだし、そういうのが好きなんじゃねーの」

「早く付き合えばいいのに」

「まあ、それでオレがオマエのこと好きになるかっつったらベツの話だけどな」

「ん〜? 今既に二番目なんだから、一番に繰り上げになるだけじゃないかな?」

「オマエってホント嫌なヤツだよな」

「否定出来ないところが好きだよ」

こうやって話をしてる時、あなたがとても心地よさそうにしてるのも知ってるよ。
二番目とは言ったけれども、あの子に見せない顔を私に見せてくれていることをきっと彼だって気が付いていないんだろう。

でもそれは報われるって話じゃない。

そもそも私はきっと、そのステージにすら上がれない。

つまり、榛名くんの私への好きは、恋愛の好きじゃないのだから。

「まあでも基本的には私は榛名くんが好きで、榛名くんが私を好きじゃなくても構わないし、君が私を嫌いになって、喧嘩とか真っ向から売ってこない限りは嫌いにならないから、安心してくれて構わないよ」

「なんで、ンなこと」

「榛名くんに安心を提供したいだけ。心配しないで欲しいんだよね。親友がほしいなら親友になるし、恋人がほしいなら恋人になってあげる。都合がいい存在と思ってくれて構わないよ」

「オマエもつくづく、歪んでるやつだよな」

「褒め言葉かな」

ずっと前から好きだった。
私は出会った時から彼が好きで、それは現在まで変わっていない。
かと言って、それが報われて欲しいかといったら、また別の話だが。
出会った時から、榛名はきっと、それなりに私を大切にしてくれていて。このままでもきっと幸せなのだ。



「私はね、君が今日あの子に会えるなら、今日君に会えなくても良かったんだよ」

私は、明日でも、明後日でも、君のためなら。






2017/05/29
ごめん榛名遅れたけど誕生日おめでとう。
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -