年は変われど君は変わらず


「クリスマスは、もちろん一人で過ごしたわ。いや、まあ、仕事あったから、一人というのもおかしいけど」

でもまあ、職場でもそれなりに浮いてる私ですもの。一人と言っても間違いではないかもしれない。

と、十二月三十一日、彼女の帰宅を狙って会いに行ってやった俺に、彼女はそんなことを言うのであった。

遠回しに、なんでクリスマスに来てくれなかったんだ。と、責められているのかと思ったが、彼女にそんな可愛げがあるわけもなく。

「で、まあ。君はクリスマスは、彼女と過ごしたんだろうけれど。そんな彼女には少し悪いけれど、入る?」

と、オレを部屋に招き入れるのだった。

相変わらず、予防線の張り方が最低な奴である。

「榛名は、今年はどんなんだった?」

ぬくぬくと炬燵に入り、彼女はそう呟くようにオレに訊ねてきた。

クリスマスも終われば年末なわけで、今日は大晦日なわけで、恋人達の夜は、もう終わったわけで。

いや、まあ。それでもオレはこんな日に会いに来てるわけで。考えて欲しいこともないわけではないのだが。

まあ、そんなもんか。と、オレは普通に返事をする。

「まあ、普通だろ」

「普通、ねえ。まあ、普通だよね。私も普通。仕事変わったり、色々あったけど、去年と変わらない普通の年だった」

彼女なんていない。と、否定しないで、クリスマスイブや、クリスマス当日に会いにこないオレはオレで、予防線を張っているのかもしれない。

彼女のことは、確かに大切で、好きだけれど、そうなりたいわけではなく。

ただ、普通でいたいわけで、この会話もその延長なのだろう。

「だから来年もまあ、普通程度の年にはなって欲しいもんだね」

「高望みしなきゃ、普通レベルには過ごせんじゃねーの」

「高望みしたら、既に普通じゃないしね……って、ああ、そうだ。榛名、あんたさ」

ごとっ、と何か重めの、手のひらより少し大きめの箱が机に置かれた。

クリスマスプレゼントというわけではなさそうだ。包装されていない。

「これさ、こないだ貰ったんだけど」

「なんだよ、これ」

「マグカップとスープカップの間みたいな大きさのカップなんだけど、私それぞれ持ってるし、このキャラクター、あんた好きでしょ。あげる」

「人からの貰いもん、人にやるなよ……」

「こないだ、クリスマスプレゼントにそれくれてさ。帰ってからラインで告白されて、連絡しなくなったから、使うの嫌なんだよね」

「相変わらず色々最低だよな、オマエ」

「このキャラクター好きでしょ? って言われたんだけど、どこみてそんなこと言ったのかもわからんかったし、言い方もムカついたし、友達だったら、まだ良かったんだけど、それ以上望まれたらねー」

「まあ、オマエがそれでいいならいいけどよ。でも、いわくつきで使いにくいだろこんなん」

「私からのプレゼントだと思ってよ。多分友達が勘違いしたのも、最近私がそのキャラクターのグッズ、よく見てたからだと思うし、必然じゃないの?」

「は? なんで好きじゃねーのに見てたんだよ」

「いや、榛名の好きなキャラだなーって、つい目がいくって言うか、友達の好きなものって気にならない? 私気になるけどなあ」

「オマエの場合、友達なんてオレくらいしかいないからだろ。友達の好きなキャラクターなんて全部いちいち気にしてられっかよ」

「失礼な奴だね。間違ってないけどさ。友達一人なくしたばかりだし……。でも、まあ、そんなわけだからさ。あんたのものみたいなもんだと思うから使ってよ」

気にしてくれてた。と言うことを喜ぶよりも、彼女が告白されたことに焦るよりも、オレは気にしてくれていたことに焦った。

もしかしてそうなのだろうか。なんて思って、焦ってしまった。

そして多分、それが彼女に伝わってしまった。

「しかしあんたもさ、なんでこんな日に来るんだか。私が実家に帰ってたらどうしてたのよ」

「オマエ、大晦日まで仕事っつってたろ」

「仕事おわって、実家に直帰してたかもしれないじゃん」

「一日も仕事っつってたオマエが、そんな面倒くさいことするわけねーしな」

「よくおわかりで」

「伊達に何年も友達やってねーよ」

「そーね、私と何年も友達やってくれるのなんて、榛名くらいだしね」

遠回しに、今回みたいなことが何度もあったことを言っているのに気付いてしまうのも、オレを牽制してるのがわかるのも、本当はまあ、そういうことだからかもしれないが。

だからこそ、オレは来年も普通でいい。そう思うことしかできない。

変わってしまえば、彼女は離れていくからだ。

はっきり自覚すれば、彼女は気付くだろう。だからオレには自覚することすら許されていない。

「ていうか、ここで年越すの?」

「家に居ても暇なんだよ」

「あっそ。ま、いいけどさ。私も暇だし」

と、思い込んでるせいで、きっとオレは来年も、彼女が牽制してるわけではないことに気が付かないわけだ。

そして、彼女が新しくできた友達の告白を断る理由に気が付かないのである。

暇でも、男を家にあげて、一緒に年を越してくれるなんて、彼女からしたら相当特別なんだということくらい、考えればわかるはずなのに、オレはそこだけ気付かない。




「……あーあ、来年もきっと普通ね」

「あ? それくらいでいいっつってたろ、オマエ」

「それだけでもどうなのかな、と少し思っただけ。というか、それくらいでいいというより、最低限はって気持ちよ、最低限。高望みし過ぎないってだけ」



2015/12/31
お互いバレないようにするから、気が付かない。でもきっと再来年には気付くんじゃないかな。
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -