友達ごっこ/坂田
友人の好きなものの批判をして、友人の好きな人の欠点を語り。それでも私は、別に陰口を言ってるつもりはなかった。
言葉にするのは権利だ。友人の好きなドラマは、明らかにご都合主義で、ネット上での批判も多い。ちなみに、私は、ネットでの批判を見る前から、あの話はおかしくないか? と思っていたので、別に影響を受けたわけでもない。そして、ネットみたいな顔も見えない人が好き勝手言うのはどうかと思ったので、感想として、正々堂々と、それを友人に話しただけだ。
そして、友人の好きな人は、傍目から見ればただのプータローにしか見えないやつで、私は別に本人にだって、おいプータロー。働けよ。と、言っている。つまり陰口ではなく、マジでお前、あの男のどこがいいんだ? と、そう言いたいだけなのだ。
とまあ、ここまでが言い訳。
私はただ、試しているだけなんだと思う。私の友達面する彼女らが、どこまで言えばあからさまに私に敵意を向け始めるのかを
家族でもない人達が、果てしてどこまで私に付き合ってくれるのかを
つまりまあ、私を好きでいる義務なんて、誰にもないし。こんなにひどいことしてるんだから、嫌われて当たり前だとは思ってる。わかっているのだ。
でも、それでも好きでいて欲しいなんて、それは甘えなんだろう。
「それと、私はね、ムカついたらムカついたと、そう言って欲しかったんだろうと思う」
「おお」
「サイテー! とか、言って、面と向かって喧嘩して欲しかったんだけど、しかしまあ、私のようなやつと、喧嘩してまでそばにいたいわけないんだ。みんな」
「つーかなんだ、それは相談かー? 長くなんなら相談料とるぞー。銀さんはプータローじゃねーから。万事屋だから。仕事としてならお前のクソ長ェ話聞いてやるよ」
「依頼料くらい払うって。お前とは仕事での関係だけでいたいしな。プータロープータローとは言っているが、お前の言う、"仕事"でしか、私達は関わったことはないだろう」
「ん、まァな。で、この依頼は、相談聞くだけでいいんですかァ? それともなんか解決して欲しいのォ?」
「解決できるならしてもらいたいものだよ。しかし、私の性格の悪さの矯正なんて、土台無理な話だろうしな。だからつまり、私は君に話を聞いて欲しいだけだ。私から君に払う依頼料ってのは、友達のいない私が、話を聞いてくれる相手のいない私が、そして、ただひたすら私が話をするのを聞いてくれるような都合のいい相手を欲している私が払う、所謂、短期間の友達料のようなものだからね」
「ってことは、つまり、友達のいない千紗子ちゃんの友達になってやる依頼ってことか」
「ああ、いつも通り、簡単に言えばそういう事だ。では、次の話題に移ろうか」
「話の切り替え方下手すぎじゃね? 議題を変えるみたいな言い方したよね? これ友達の会話じゃなく会議だったっけ?」
もう、私の周りで、私の話を聞いてくれるやつは、私のどうしようもない依頼を受けた、プータローこと万事屋くらいしかいなくなっていた。
嫌われる覚悟で、ってほど覚悟もせずに友人に不愉快な思いをさせた私は、ある意味人生ゲームオーバーだ。
もちろん。プータローと違って普通に仕事はしてるけれど。仕事して、稼いだお金使うだけじゃ、人生はそこまで楽しくなかった。
一人でいるには、人生は長すぎたのだ。
そして、次の話題、と言ったはいいものの。実を言うと、私には次の話題も、その次の話題もない。
世間話でもするべきだろうか。と、ソファーに深く腰をかけ直せば、なぜか、わざわざ移動してきたプータローが少し間を空けて隣に座った。
「なに?」
「いや、なんでも。で? 次の話題をどーぞ」
「では、巷で噂の、人斬りの話でも……」
「つまんなそうだから却下」
「では、近くの寺子屋でやってた運動会の話でも」
「知り合いもねェ運動会観に行ってたのお前!? ちょっと休日の過ごし方暗すぎない!?」
「先日、最後の友人が音信不通になったのだから仕方ないだろう。変更をしたのであろうメールアドレスを教えてもらえなかった。さっきも話したじゃないか。友人がいなければ休日にやることもない。こうやってお前相手に散財するか、散歩して、景色をみて楽しむしかない」
「つーかよォ、散財する相手なら他にもホストとかいンだろーよ? なんで銀さんなんですかー?」
「ホストなんて優しい言葉しかかけてこんだろう。行ったことはないが、いめーじ的に」
「いや、お前みたいなタイプ相手なら、もっとこう、違う攻め方してくるんじゃねーの? あっちもプロだしな」
「そうかもしれんが、ぎん……お前の方が話しやすい」
「お前、頑なに人の名前呼ばねーよな。プータローだの、お前だの、どういう縛りプレイだよ。俺は名前変換無しの夢小説の主人公ですかァ?」
「多少メタともとれる発言は如何なものかと思うが。まあ、線引きだよ。あくまで、友達ごっこである。と、そういう線引きをしている」
「あーそーですかー。じゃあ、お前が名前を呼んだときは、俺がお前に友達扱いされた時ってことなんだな」
「まあ、そうなるな」
「ところで、話変わるけど。千紗子ちゃん、今日何の日か知ってる?」
「お前の誕生日だろう」
「知っててこんなことしに来てんの!? え? 嫌がらせですかコノヤロー」
「誕生日にケーキも食えなかったらかわいそうだから、わざわざ金払いに来てやったんじゃないか。感謝こそされても、批難される覚えはないな」
「いや、でもな。知ってるならなんか一言あるだろうよ。な?」
「あれ? 言ってなかったか?」
足を組みながら、ソファーの背もたれに、わざとらしく体重をかけて、惚けたことを言ってやれば、友達役のプータローは、ため息をつきながら、少し私との距離を詰めた。
まだ少し遠い。安心する距離だ。
ああ、それにしたって本当に、私はなんのためにこいつのところに来てるんだろう。
こいつの誕生日なんかにわざわざ。あの子も、お祝いするって言っていたのに。
私は、ここにあの子が来るんじゃないかと、期待しているんだろうか。
「まあ、銀さんも餓鬼じゃありませんからー? 誕生日おめでとう言って欲しいなんて言わねーけどよォ」
「けど。なんだ?」
「べーつーに、なんでもありませんー」
「餓鬼というより、彼女みたいだな。彼氏に祝ってもらえなくて拗ねてる、面倒くさい女っぽいぞ」
私がそう言うと、プータローは、また少し距離を詰めてくる。少し不安になる距離だった。
「アイツなら、朝一でプレゼント持ってきて、家に帰したからこねーよ?」
プータローがぽそりと言った。私はため息を吐く。
「そうか。目当てがバレてしまったなら仕方がない。しかも来ないとなれば、そろそろ帰るとするか。ほら、これ依頼料だ。これでケーキでも食べるといい」
「なんつーかよォ、お前が俺のこと名前で呼ぶ決心がついたら、金なんて無くてもいくらでも話聞いてやるから。とりあえず今日は受け取ってやるけど」
だいたいこれじゃ、おめー、ホストに貢いでる女と本格的に変わらなくなってきてるからな。
と、ぶつくさ言いながら、金を受け取り、ソファーから立ち上がって、プータローは、引き出しの中のいつもの封筒に、私が差し出した現金を入れた。
どんどん厚くなっていくその封筒。いつ見ても減ってる様子がない。だから、私はこの男が嫌いだ。
「じゃ。今日を楽しんでくれ。銀時。誕生日おめでとう」
そう言った私に、彼があの封筒を投げつけてきたって、私は絶対受け取らないんだけれど。
2015/10/10
坂田誕生日おめでとう。
人間不信な人書きたかったというか。ぶっちゃけ坂田に甘える人書きたかったけどうまくいきませんでした。