死ぬには良い日/臨也


生きたくないなら死ねばいいのに

なんて、折原くんは素敵なアドバイスをくれる人である。

まあ、極論を言われりゃ、そうかもな。なんて思うしかなく、それが選べないなら生きなきゃいけないなあ、とか。自分に変な期待も、妙な不満も持たず、ただ、そこに存在することができた。

私は彼と平和島くんとのいざこざに巻き込まれて、何度か死にかけたこともあるくらいだから思うのだけれど、生きてたら死なんて目の前にあるわけで、まだ死んでないならそれは神様の思し召しというか。

折原くんの思し召しなんじゃないだろうか。

私程度、折原くんなら簡単に殺せるし、まだ生きてるなら、一応、彼が、私が巻き込まれて死なないように加減してくれているからな気もするし。そしたら、彼が私も死なせてくれるまで、生きててもいいかなあ。とか。

そんな考えすらきっと彼は看破していて、私が苦しむから生かしてる可能性もあるけど、あの人がそれで楽しいなら別に私は構わない。

ほぼ死んでるみたいな状態で、それなのに生きて激痛だけ感じ続けてるわけじゃないのだ。私の状況はマシだろう。

私はただ、ずっとなんにも感じてないだけで。

いや、好きなものも好きなこともある。でも、好きな人だけ出来ないのだから、なんにも感じてないというのには、語弊があるかもしれないが。

人に対して、なんにも感じてないのだ。

好きの反対は無関心とも言う。私はそうは思わないが、そう考えるとしたら、私は折原くんの逆なのかもしれない。

私にとって、自分以外の人類なんて、どうでもいい。

折原くんだって、きっと私の中ではどうでもいい。彼が死んだって、私は対して悲しまない。悲しむポーズはとるけれど。

「とか色々思っちゃってるんだろうけどさあ、君は人に興味津々だと思うよ? 俺は」

「折原くんがそういうのなら、そうかもね」

「仲良い相手にも壁を作るのは、関心が無いわけじゃなくて、傷付くのが怖いから。違う?」

「違わないかも」

「あと君さ、恋愛相談自体辞めたほうがいいよ。そんなことするから、好きになりかけの気持ちが冷静になって、第三者の意見を加味して、その結論が、これは恋じゃない。でしょ? それとも君は恋したくないの?」

「まあ、したくないかもね」

ペラペラ喋り続けてくれる彼に短い言葉を重ねて。

本来なら私だって饒舌な方なんだけれど。

この人と話すときは、自分が話すより、きくほうが好きだった。

それにしても、折原くんの家のソファーは、金を持っているだけあってふかふかで気持ちがいい。

こんなソファーの上で死ねたら、それはとっても素敵なことな気もする。

まあ、折原くんの性格からして、私を幸せな状態で死なせるわけがない気もするし、私がこの上で死ぬことはないんだろうけれど。

「前にも言ったけどさあ、生きたくないなら死ねばいいんじゃない? 君が手伝って欲しいなら、犯罪にならない程度に、手伝いくらいしてあげるよ。君には色々助けられてるしね?」

「んーと、逆にさ死にたくないなら生きろとも言うけど、確かに、私は、死にたくないってほど、生には執着してないし、死に終着しちゃってもいい気もするんだけどね」

目の前のテーブルに置いてある、折原くんが入れてくれたコーヒーを飲む。

私はコーヒーは飲めないのだけれど。嫌いなのだけれど。ブラックのままのそれに、とりあえず形だけ口をつけた。間が持たないからなのは、きっと折原くんもわかっているだろう。

「結局君は逃げてるだけなんだよ。生きることからも死ぬことからも、好きになることからも、嫌いになることからも」

「私の言葉は逃走用だからね。そんなもんだよ。折原くんだって知ってるじゃない」

そう表現してみて思ったのだが。だとすれば私が折原くんに饒舌じゃないのは、彼からは逃げられないのがわかっているからなのかもしれない。

「逃げる君を一生懸命追いかけてくれる人なんて、きっと死ぬまで現れないよ」

「それはそれで、息切れし続けなくて済むからいいかも」

「今だってずっと息切れしてるくせにねえ。自覚ないの?」

「ないよ。無理はしてないつもりだから、それは折原くんの気のせいじゃないかな」

「飲めないコーヒーに無理して口つける君が、どの口でそんなこと言ってるんだろうねえ?」

「全く、折原くんだけだよ。そんなことに気付いてくれるのは。で、そんな私が無理するのは、気付いてくれる折原くんの前だけってこと」

私ね、思うんだよ。と、私は続ける。逃げられないことくらいわかっているのに。逃走用の言葉を

「折原くんを追いかけてなら、息切れしたっていいかもしれないって」

「相変わらず返答に困る嘘をつくよね、君は」

「嘘って気がついてくれる折原くんにしか、こんなくだらない嘘はつかないよ」

私はいつだって、いつまでだってこの茶番劇を繰り返し、生き永らえるだろう。

彼が自分の都合で私を殺してくれない限りは。

そして、そんな日がくるなら、きっとその日はきっと人生最高の日になるだろう。

茶番にしかならない、私と彼の会話が、茶番ではなくなるのだから。

「じゃ、帰るね。またね、折原くん」

好きな人も嫌いな人もいない、どうでもいい人ばかりの世の中だけれど、折原くん以外に殺されたって、別に嫌なわけではないのだけれど。

意味のない生を続ける私の死に、意味が出来るなら、それはきっと素敵なことだろう。

「まあ、気を付けて帰ってね。最近、物騒だから」

そして、そんなことを言う折原くんに、今日も私は期待してしまうのだ。今日こそ死ねるんじゃないかって。

私にとっては、今日も死ぬには良い日なのだ。




2015/08/05
死ぬには良い日に死ねるとは限らないんですけどね。寧ろ狩られる側な彼女のお話。
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