その余地はなく その後の話
「知ってたの?」
「おう」
榛名は当たり前みたいにそう言った。好きな人の好きな人だからわかった。とかそういうことなのかと思っていたら、彼女が、彼女らしくもなく、榛名を牽制したようで、それはそれで気に食わなかった。
なんだ。彼女にとっても結局榛名は特別なんじゃないか。
どうりで嫌いな筈である。
「榛名はさ、あの子がなんで、榛名にだけ、女の子が好きなこと打ち明けたかわかる?」
「まあ、オレに好きになられたら困るからだろうな」
「そんなの、榛名以外にしてないんだよ、あの子。男なんて嫌いになるために存在してるって思ってるんじゃないかってくらい、他の人には酷いもの」
「他のヤツにも牽制はしてると思うけどな。ただ、他のヤツのが、オレより好きになれそうだと思ったりして調子に乗るだけじゃねーの?」
「そんなことないと思うけどな」
しかし、あの子のせいで、私ははれて、好きな人の恋敵になってしまったわけで、榛名くんも知ってて今までよく普通に接してくれていたよなあ。と思う。
私なんて、あの子の事が許せなくて大嫌いだったというのに。
それならあの子は、私が榛名を好きだと知ったら、榛名をどう思うんだろうか。
嫌いになってくれるのだろうか。
「そーいやお前、あいつのこと嫌いなんだってな」
「まあ、うん」
「褒められた性格してねーしな、あいつ」
「なのに、なんで榛名はあの子が好きなの?」
榛名は少し驚いたような顔をして、しばらく黙った。
悩んでいるようだ。悩むくらいなら好きにならなきゃいいのに、と思ったが、好きなんて気持ち、反射みたいなもので、多分それは、私がオムライスを好きなのと同じようなものなんだろう。
私はそんな風に、榛名が好きなわけだし。
「嫌いになれねーから、好きなんだろうな」
「はい?」
「あんなヤツ、オレは好きでもなきゃ、友達にもなってねーし」
哲学的だ。いや、哲学の意味なんて、私にはよくわからないけれど。
嫌いになれなきゃ、好きなのか。それはそれで正しいのかも知れない。
無関心なんて、知らないだけで、知ったら好きか嫌いかの二択であり、嫌いになれなきゃ、好きになるしかないのだろう。
あの子は、すごく好きになるか、すごく嫌いになるか、それしか選択肢を与えてこないようなキャラクターなわけだし。
だから男の子は騙されるし、私はあの子が嫌いだし、榛名はあの子が好きなのか。
「榛名は、私が榛名を好きって言ったらどう思う?」
「は?」
「私の方が、あの子よりずっと榛名を幸せに出来ると思うよ」
「……すげー自信だな」
「あんまり驚かないんだね」
「まあ、気付いてたからな」
「そっか」
お互いに誤魔化した私達は、きっとあの子以上に牽制が下手で、榛名はそれ、投手としてどうなの。とか思うけれど、それはそれとして。
「私、これから先も、たぶんずっとこのままだよ」
こんな宣言して、私はどうするんだろう。
逃げ道なくして、自分に誓って。
あの子の告白と、私の告白はきっと同じようで、ずっと違う。
「ありがとな」
そう言った榛名が優しいのか、酷いのかすら、私にはもう判断がつかない。
2015/01/05
三角関係の話はこれで終わり。多分折れるのは榛名だと思うけど、書けない。この話は、前の二つの補足みたいなものです。