計画的に死なせた心


「私ね、あのこの失恋が痛くて仕方ないんだよ。自分が失恋してもここまで胸が痛くなったりはしないけど、あのこの失恋は異常なくらい胸が痛くなる。」

「なんでだよ。」

「あのこが不幸になるなんて考えられないの。」

友達が失恋した。このバカにフラレたのである。武蔵野第一高校二年B組、榛名元希。私の隣の席の、この大バカ者に。

彼女は器量も良く、頭も良く、性格も顔も良い、非の打ち所のない良いこだった。控え目でしとやかで、まさに大和撫子。私はそんな彼女と友達である事を誇りに思っていたし、彼女が大好きだった。

そんな彼女に好きな人が出来たというのだから、私は全力で応援して、今日の告白まで完璧にセッティング。パーフェクトな演出だった筈なのだ。

彼女と彼の仲は、私の思惑通り良くなっていったし、誰もが彼女と彼が付き合っていると勘違いしていたことだろう。後はそれを現実にするだけだったのに。

「オレと付き合えりゃ、アイツが幸せになるっつーのかよ。」

「少なくともフラれるよりは全然幸せだよ。あーあ、なんでフッちゃうのかな。彼女とっても可愛かったでしょう?」

「てめえの自己満足なシュミレーションに付き合ってられっかよ。アイツは上手く恋愛出来ないオマエの代用品じゃねェ。」

「代用品?」

彼の口から出た、予想外の言葉に、私は首を傾げる。代用品。つまり何かの代わりということ。彼はその何かに、私を入れた。彼女が私の代用品?まさか。私には榛名の思考回路がさっぱりわからない。

「アイツみたいになれねーからって端から諦めて、そんで代わりにアイツの恋愛を応援して満足することにしたんだろ。」

「なに?私が何を諦めたって?私は何も諦めてなんかいない。私は、ただ」

「素直に自分でコクれよオレに。人を使って様子見なんてすんじゃねーバカ女。」

「私が榛名のことを好きだとでも?笑わせてくれるね。私のどこが」

ウソだ。思い当たる節はいくらでもある。

榛名へのクリスマスプレゼントをあのこと一緒に買いに行って、私はどれだけのものを榛名にあげたいって思った?これ、榛名に似合うだろうな。とかって常に考えていたじゃないか。

榛名は、私が"絶対にあげなさいよ!"と命令しておいたあのこの分だけじゃなく、私の分までプレゼント用意してくれてて、お返しがないのはアレだからって理由をつけて、密かに買ってたプレゼントを渡した。

私は貰った髪留めを一度も着けなかったけれど、榛名が私のあげたシャープペンを使っているのを見る度優越感に浸ってた。髪留めだって、ちゃんと大切に保管してある。

それに、あのこがバレンタインにチョコレート作った時、付き合いで一緒に作ったチョコレートを、義理だとか言いながらも、あのこにチョコレートを貰って笑っていた榛名に渡せなかった。義理なんだから気にしなきゃよかったのに。

あのことじゃなく、私と榛名が同じクラスだと知ったとき、私は本当に歓喜しなかった?しなかったと言えば嘘になる。でも私はそれを認めるわけにはいかなかった。

だって、最初からわかってたんだ。勝ち目なんて全く無いことくらい。あのこの方が、私よりずっと可愛くて、榛名もきっとあのこを選ぶだろうってことくらい、私はわかってた。

「私の、どこが、榛名のこと好きだって言うんだバカ。」

「今までの行動全部がそう言ってンじゃねーか。認めろよ、オマエはオレに惚れてんだ。」

「違うっ……」

「違わねェ」

「違うよ、私は、あのこを、」

「ここまでがオマエのシュミレーションなんだろ?アイツがフラれてオマエがオレと付き合う。だからオマエはアイツがフラれた後のこの教室に残ってオレに話しかけた。どこも違わねーだろ。」

そんなつもりなかった?あったじゃないか、最初から。手伝うなんて嘘だったじゃないか。私は彼女を代用品どころか、体の良い道具としてとしか捉えていなかった。手伝うといったのは、二人が上手くいくのを阻止する為だった。

「好きだって言えよ、付き合ってやっから。」

「でも。」

「ま、そしたら間違いなく明日にゃてめえの友達は居なくなんな。でもいーだろ?オマエにはオレが居んだから。」

その言葉に、促されるまま頷く。それで良いんだ。だって、榛名がいるじゃないか。友達なんていらない。私は榛名が欲しい。
ほんの十数分前にあのこがここで言った言葉を復唱する。これは私のシュミレーションじゃなくないか?榛名、これはアンタの。



2010/08/25/都竹
私が書くとみんな性格が悪くなる。
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