その余地はなく 別視点(榛名が出てこない)


またやっちゃった。でもさ、あの程度で我慢できずに手を出してくる男なんて、ろくなもんじゃないよね。私も悪いかもしれないけど、あっちに非が無いわけでは絶対にないし。連絡切ったっていいよね。

と、彼女は不機嫌そうに笑って私に報告をするわけなのだが、この女の被害者には、本当に同情する。

そこそこの容姿、わりとサバサバした性格のわりに、仲良くなるとさりげなく寂しがり屋の面を見せてきて庇護欲をそそる。

自信過剰のくせに、自分を卑下して、めんどくさいところもあるが、付き合いやすい部分もあり、とかなんとか言ってはみたが、まあ、おそらく、彼女がなんだかんだでモテるのは、最初にも述べたそこそこの容姿のお陰だろう。

「あのさ、いい加減、適当な男子と仲良くしては、この人なら好きになれるかもしれない。とかって、相手に期待して、相手を期待させるのやめた方がいいと思うよ」

「やめようとはいつも思ってるんだけどさ。私も、好きになれるかも程度にしか思ってない男に擦り寄られるのって、不愉快だしね」

酷い女だ。この度被害にあった男子も、私の友達なわけで、あいつはあいつで、人を見る目がないわけではないと思うのだが、なんで男はこんな女に騙されるのだろう。

私の知る中で、こいつと仲良くしててもこいつに全く期待していないのなんて、一人くらいしか思いつかない。

「でさ、それはともかく、明日は一緒に初詣行くでしょう? 私とあんたと、榛名と秋丸と」

そして、彼女は自分で話題をふっといて、自分でさっさと話を変える。

まあ、あんな話を続けるよりはいいけれど、こちらとしては振り回されるだけなのでやめてもらいたい気持ちもないこともない。

「あー、うん。そのつもりだけど」

「ふーむ。なんというか、秋丸なら、楽そうだよなあ」

まあ、無理だろうけど。と、彼女は呟く。

「まあ、それはともかくさ」

そして、あっさりとまた話題を戻した。


それにしても、無理か。まあ、それはそうだろう。彼はそういうんじゃないだろうし。

その点、榛名なんて。

「お、榛名から電話だ。明日についてかなあ?」

「そうじゃない?」

榛名なんて、あっさりとこの子を好きになりやがった。

私だって、この子と対した違いはないと思うのに。同じように仲良くしてきたのに。

私だったら、榛名に無駄な期待をさせることもないのに。

「もしもし榛名? そうそう。今ね、丁度千紗子ちゃんといるのよ。でさ、明日何時にする?」

もっと、美人に生まれてたら、何か変わっていたんだろうか。

いや、何も変わらなくたっていいんだけど。別に私はモテたいわけじゃないのだから。榛名がこの子に騙されて、悪人呼ばわりされる前に助けてあげたいだけなんだから。

そんなこと、もしも、とか。そんなこと、考える必要ない。

「オッケー、伝えとく。じゃあまた明日ね。楽しみにしてる」

彼女の言葉に嘘はないけれど。

媚び媚びって程にトーンの高くないその電話中の声が、また相手を安心させて、彼女が彼女だったなら、きっと楽だろうなんて思わせて。

イチャイチャしたくはないの。なんて、甘えさせてもらいたいわけじゃないとか。お前違うじゃん。寂しがり屋なのに人と必要以上に関わるの嫌いな、めんどくさいやつなだけなのに、なんなのほんと。そんなこと考える私が、何様なのって話なんだけど。

きっとこのままあっさりと年は明けて、彼女はあっさりと私の好きなひとをこっぴどく振るのだろう。

そんなの最低で、最低過ぎて。一年の最後がこれなんて、嫌すぎる。

「でもまあ、秋丸よりなにより、私は千紗子ちゃんが一番好きだな。女の子って柔らかいし可愛いし。そもそもなんで男なんて存在するんだろうね」

そんなこというなら、榛名と関わらないでって、そう言えたら良いんだけど、好きって言ってくれる友達に対して、そんなこと言うのも酷い話だよなって思ってしまうし。それでも

「うん、あのね、千紗子ちゃん」

「ん?」

「気付いてないだろうからもう、今年の間に言っちゃいたいから言っちゃうけど。私が本当に好きなのは、千紗子ちゃんなんだよ」

「ああ、そう。でも私はあなたが嫌いだよ」

気持ち悪いより、なにより、まずその言葉が最初に出てきた。

彼女は、嫌いじゃないけど気持ち悪いって、男の子を振るけれど。

この場合そうじゃないんだなって思った。

ああ、そうか。私は、彼女が嫌いだったのだ。好きだと言われて気がついた。

「私は、あなたがずっと嫌いだったよ」

酷いことだって、いくらでも言えちゃうくらい。

私はこの子が嫌いなのだ。

恋敵だからとか、そんなんじゃなく。全部嫌いだったらしい。

「あー、そっか。なんかごめんね」

泣きそうな顔をしてどこかに行った彼女を見送ったあと、私は榛名に電話した。

あの子のところに行ってあげてって。

きっと彼も彼女と同じように傷を負うだろうけれど。

私だって、もうボロボロなんだけれど。



もう、皆で傷ついちゃえば良いと思うのだ。

どうせ、こんな状態でも、年はあっさりと明けてしまうんだから。




2014/12/31
お分かりの方もいらっしゃるかと思いますが、去年の年末のやつの、告白されたサイドの話ですね。榛名が名前しか出てこないけど、どうしても書きたかったのです。ごめんなさい
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