私は世界を天秤にかけて/坂田


「よ、新任教諭」

オレがまだ、銀魂高校に赴任する前。はじめて赴任した学校に、彼女はいた。

校則違反のピアスも、派手な髪の色も、短いスカートも。大人しい生徒の多い校内でたった一つ異質で。

それなのに、彼女はやけに自然に、不自然なまでに自然にそこにいた。

「坂田銀八。ここでも会えて、本当に良かったよ」

なんでお前だけ名前変わってんだろね。そう彼女が笑った意味は全くわからなかったのだけれど。

「でもまあ、そろそろ戻ってきなよ。こんなわけわからん世界からはさ。まだ早いって」

今ならわかる。ああ、彼女が言ったのはそういうことか、と。




「幸せな夢でも見てたか白夜叉。っていうか、よく起きたな。絶対死んだって思ってたのに」

「誰かさんが呼びに来たからな」

「意味がわからんが、まあ、その誰かさんに感謝だな。さて、ヅラもシンも待ってるだろうしそろそろ行くか。ここで例の話の続きはできないしな」

例の話? とは思ったが、確かにここでジッとはしていられないだろう。

簡単に止血された傷口に、彼女の血まみれの着物。なんとなくだがらすぐに状況は思いだせた。

しかし、まったく。敵に囲まれたあの状態からよく逃げ延びたものだ。なんにせよ、あの場所からさほど離れていないのならここは早めに離れた方がいいだろう。

囲まれる前に、何か彼女に問い詰めていた気もしたが、いかんせん頭が変な夢のせいでぼーっとしていて。

そういえば彼女は、夢の中では天人が来ていそうな着物を身に付けていた。それどころか、自分も周りの連中もである。アレはもしかすると、未来というやつなのだろうか。それはつまり、オレ達がこの戦争で。

「というか、意識ない状態であれだけ走れるなんて、白夜叉はなんだ。逃げの白夜叉とか、そういう異名も狙ってるのか」

「いや、それなんか、別の未来の誰かに怒られそうなんですけど!?」

「別のってなに? まあ、それだけ的確なツッコミができるのから問題なさそうだな。いくぞ白夜叉」

と、これ以上は待てねーぞ。とでもいうように彼女は立ち上がり、そして、つられて立ち上がったオレを当然のように蹴飛ばした。

意識はしていなかったが、先程から後方に川の流れる音がきこえていて、それはつまり、その為か。とすぐに理解をした。止血をしているとはいえ、簡単なものだし、こいつは怪我人を殺す気なのだろうか。なんて、一瞬の夢で平和ボケした頭で考えて、恐らく、これから単身、敵に向かって行くのであろう、彼女のにやけた口元に目をやれば、ああ、そうか。お前が死ぬつもりなのか。そう思った。

「生き延びろ銀時。私は未来で待ってる」

輪廻なんて信じないと言っていた、信仰心のない女がよくそんなことをとは思ったが。

そう動いた唇をオレはいつまでたっても忘れられやしなかった。



のだが。



「やあやあ、久しぶりだな、銀時」

まあ、未来。とでも言っていいレベルの今。

彼女はあの時とはうってかわった綺麗な洋服に身を包み、オレの前に現れたのである。

あのよくわからない夢の、生徒とやらなんかではなく、それは、そう。

「おまっ、その格好……」

「びっくりしちゃったよ。真選組のオッキーが銀時のこと知ってるんだもん」

「いやまてまてまてまて」

「うちのサブちゃんともメル友だったんだって?」

彼女とは、別れた時のことが強烈過ぎて忘れていたが、そういやこいつ内通者とか疑われてたんだった。オレはあの時、それを問い詰める為にこいつと二人でいたわけだ。

と、美化された記憶からそんな答えをひっぱりだし、咄嗟にどういうことだと彼女の胸ぐらを掴めば、彼女はなんでもない顔をして、笑う。

「内通者って、銀時も気付いてたんだろ? まあ、私もそれなりに事情あったんだけど、責められて仕方ないとは思うし、殴られにきてやったんだからほら殴れ。そら殴れ」

丁度昨日が誕生日だろ? プレゼントだよ、受け取りな。

そう言われ、当然殴った。結構全力でいったのに微動だにしない彼女は相変わらず化け物じみている。

「でさ、もう時効でいいよね。これで許して欲しい」

「どの口がンなこと……」

「まあ、自供してしまったわけだけど、証拠はないし。んで、まあ、私は別に、今も昔も、幕府の為になんて動いてなかったしね。私は銀時が生きてりゃなんでもよかっただけだしさ。今だって、銀時が生きてること確認できたし、何かあれば、すぐに銀時のこと助けるよ。銀時の為なら、なんだって裏切るつもりだし」

彼女のことだから、と。口からのでまかせだと判断することもできたが、オレも甘くなったというのだろうか。そう思うことはどうしても出来ず。

いや、彼女には昔から甘かったかもしれないが。彼女だって、昔からオレには嘘はつかなかった。

高杉や、ヅラに嘘をつくことはあっても、オレには。

「私はね、銀時。こんな私でも、生きててよかったと思ってくれてる君が、本当に大切なんだよ」

あの時夢にみたような未来は今のところは訪れる様子がないが、彼女との再会が来世にならず、本当によかったと思っている自分のことはどうしたって誤魔化せるわけがなく。

「ったく、相変わらず口だけはうめーなオイ。……お前もまあ、よく生きてたよ」

仕方なくそうやって、頭を撫でてやれば、彼女は嬉しそうな顔をしながらも一言。

「つっても、死んだって銀時と私は来世でも会うと思うけどな」

「は?」

「まあ、気にしないどいていいよ。でもまあ、ただの夢ならやけに設定ちゃんとしてると思わないのかなあ、とか。銀魂高校ってなんだよ。とか、ね」

「いや、世界観壊すメタ発言はやめようね!?」

「まあまあ、気にすんなって。大丈夫。もしかしたらあんなんはさ、ヱヴァにも出てきた、もしもの世界かもしれねーじゃん」

そして彼女がいうには、そのどこかでも、オレは彼女といるらしい。まったくはた迷惑な話だ。



2014/10/11
坂田誕生日はあらかたやりつくした感あるんで、こんなんでごめんなさい。私の好きな3Zと攘夷とメタ発言とを全て織り込んだらこんなことになった。後悔はしてなくはない
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