最近のはなし・完


「彼氏の誕生日だっつーのに、お前は携帯でゲームですかそうですか」

「あんたの誕生日プレゼント買ったらお金なくなっちゃったからさ、ゲーム以外することがない」

「いや、あるだろ」

「現実でもネトゲでも金がないので、せめてゲーム内通貨だけでも増やそうと露店で転売に明け暮れているから邪魔しないで」

「帰っていいか?」

「それはダメ」

まあ、良くも悪くも平常運転な彼女である。

彼氏が遊びにきているというのに、いちゃつくわけでもなく、ただひたすらゲームに明け暮れる彼女こそが、まさにオレの惚れた女であるわけなのだが、さすがに誕生日くらい構ってほしくはあった。

ただ、帰るな、と言うところを見ると、オレがどうでもいいというわけではないようである。

普段なら下手すると、暇なら帰ってもいいよ。なんて言いかねない彼女だ。誕生日というのは、ちゃんと考えてくれているのだろう。

とはいえ、なし崩し的でもこんな女と付き合って、結局惚れている自分の趣味は相変わらず全くわからないままだが。

「転売って、なんかいい響きじゃねーな」

「んー、まあ、そうかもね。ただ楽しいよ。仕入れて売るって行為は凄く楽しい。なんかお店やってるみたい」

「露店ならお店だろ」

「んー。なんていうか。本物の? まあ、人件費とか、維持費とか、そういうの無い分、全然現実じゃないんだけどね。売れるものがわかりやすいし」

「なんか頭使いそうだな。そういうゲームだっけ?」

「んー、ネトゲって大体そんなゲームじゃないの? まあ、こんなん私でもできるんだからバカでもできるよ。私もkaedeさんに教わっただけだし」

「それ誰」

「フレンドの男の人」

「ふーん」

ちょっとモヤっとしたが、彼女は別にネトゲで浮気をしたりするタイプでもないので、気にする必要はないだろう。とはいえ、それで気にしなくて済むなら、嫉妬は七つの大罪になんて数えられなかっただろう。

そして、オレがヤキモチをやくのをわかっていて言ったのであろう彼女は、そこでようやくゲームをやめた。

「でね、元希くん」

「あん?」

「結構大事な話がある」

「なに」

「あのね、その」

「なんだよ」

「なんていうか、私妊娠したかもしんない」

「……は?」

「いやね、生理来ないし、検査薬で調べてみたら陽性だったの。まだ病院には行ってないんだけど」

そういう話は来てすぐ言えよ。と、鋭いツッコミができるほど、冷静な脳内では無かった。

いやまてまてまて。

「避妊、は、ちゃんとしてた、よな?」

「でもまあ、ああいうのって百パーではないし。んで、もし本当に出来てたら産みたいんだけど、それは前向きに考えてもらえますか?」

「ま、まあ。それは」

オレもちゃんと仕事はしているし、貯金もある。そう言った面での問題は無いと言ってもいいだろう。

だが、しかし、それだけの問題ではない。まだ結婚もしていないうちから、まさかこんなことになるとは。

「でね、そうすると結婚なんだよね。とりあえず病院行って、はっきりさせてから、挨拶でいいよね」

「ああ、それは、まあ」

まあ、そもそも結婚はするつもりだったので、それに問題はないが、それにしたって、彼女は淡々とし過ぎているだろう。

と、ふと、彼女の顔を見れば、いつもよりは少し固い表情をしている気がした。

だからか。だから帰ったらダメで、さっきからこっちを一度も見なくて、か。

いつもと変わらない気がしていたが、いつもそんな感じもしていたが。何か違う気がしていたのも確かで。なんだ。別に、オレの誕生日だから違ったわけではないのか。

「うーん、なんか意外とあっさりだね、元希くん」

「は? いや、かなりびっくりはして」

「避妊してたのに子供できたとかさ、浮気心配されるかと思ったよ」

「お前、浮気できるほど要領よくねーし、浮気してたって避妊ちゃんとするだろうし」

「信頼されてるんだか、されてないんだかだね。それよりもさ、結婚は、本当に私でいいのかな。去年から思ってたけど」

「本当なら去年する筈だったろ。お前が先延ばしにしただけじゃねーか」

一昨年、彼女が誕生日にプレゼントとして渡してきた婚姻届に対して、出した返事は、一年後にお互い恋人がいなければ、結婚する。というものだった。

が、翌年である去年、約束通り結婚しようと言ったオレに対して、彼女は、さすがに交際期間ゼロは親になんと言ったらいいかわからない。と、それの先延ばしを要求してきたわけである。

あの時のオレの覚悟を返してほしい、とその後何度も思ったわけだが。

「んじゃ、まあ、午後になったら病院着いてきてくれる?」

「おう」

「あ、それで、誕生日プレゼント、これね。おめでとう」

「なにこれ」

「元希くん未だにガラケーだと、LINEもできなくて困るから、タブレット買ったの。それくらい使うでしょ? ネクサスだよー。確か、モバブ用のルーターは持ってたよね?」

こんなん買ってりゃ、そりゃ、金なくなるわ。と思った。

この間、自分のiPadかなにかも買っていた気がする。

「結婚したらこういう無駄遣い禁止な」

「趣味なのに」

「子供出来たんだろ。少しは我慢しろ」

「いや、子供は出来たって確定はしてないけど、ちぇー、子供が出来たら防水のタブレット買おうと思ってたのに。子供用に」

「あのなあ……」

「あ、ちなみに、子供が一人で歩けるようになったら、子供用のGPSついてる携帯持たせるのは有り? 無し? 無しなら結婚できない」

「……冗談だよな?」

「冗談だけど」

彼女の場合本気でもおかしくはないので焦った。

なんにせよ、子供が出来たかもしれない。なんて言っても、やはり彼女は変わらないようで。

親になるかもしれないのに、子供のままだ。それはオレだってそうなのかもしれないが。

「しかし、やっぱ呼び方、榛名から元希くんに直しといてよかったね。意外と早く結婚することになっちゃったし」

「は? 何言ってんだよ」

「うん?」

「子供できたら、お父さんとか、お母さんってお互い呼ばねーと子供が覚えねえだろ」

「……榛名、もしかして元々、子供できたらとか色々考えてたの?」




2014/05/24
あの続きものようやく終わらせました。あれだな、中編に移動しますね
ちなみに、ネトゲで転売に明け暮れているのは私です。みんなもスマホでネトゲやろうぜー
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