興味なくとも、情が湧くゆえ/土方


「ああ、土方さんお誕生日なんですってね、おめでとうございます」

五月五日の月曜日。祝日。

真選組ではもちろん祝日なんて関係ないし、今年からここで働き始めた私は、去年はちゃんと休みだったなあ、とかなんとか思いながら、ゴールデンウィーク中の混雑における、特別警戒の為、通常時以上に激務をこなしていた。

ただ単に末端隊士だったなら、こんな面倒な事務仕事はほとんどまわってこなかっただろうし、キャリア組とは言えずとも、それなりの立場で真選組に入ることになってしまった自分が恨めしい。事務より身体を動かす方がずっと良かったのに。

でもまあ、私はただ、近藤さんの力になりたかっただけなのだ。文句は言っていられない。

幕府の高官である父の立場を利用し、町で一目惚れした近藤さんとお見合いするも、あっさりとフられ、それでも諦めきれず、幼少期からその父にしごかれた剣術で、なんとか土方副長に認めてもらい、ここで働けるようになったわけだけれど。

最近はこう思うのだ。

私みたいな小娘が、やはり普通に真選組になんてなれるわけがなかったのだろう。と。

実際、事件があっても、私を現場に行かせてくれることなんてほとんどない。

結局、父がいたから、父の立場があるから、私はこうしていられているだけで、でもまあ、このタイミングで辞めるなんて言ったら、まるで根性なしみたいだから絶対に嫌だけれど、でも、寧ろ邪魔なんじゃないかとか。

そしたら、いつ切り出せば、かっこいいのか。なんて、最近はそんなことばかり考えている。

そして、先ほどお茶を淹れてきてくださった山崎さんには、うっかりそんな話をしてしまったのだが。全く、あの人は影が薄いのに鋭いから困る。

まあ、そんな山崎さんとは正反対に、心の機微を読み取ることもなく、今日お誕生日の副長さんは、私に追加のお仕事を持ってらっしゃったわけですが。

「誰に聞いた」

「さっきお茶を淹れてきてくださった、なんでしたっけあの、影の薄い、山崎先輩? が教えてくださいました」

私は白々しくそう答える。こういう言い方をしておけば、あとで山崎さんが変に問い詰められたときにも逃げやすいだろう。

仕事をサボってたなんて疑惑が浮上したとしても、私の記憶違いにもできるだろうし。

「ああ? あの野郎、この忙しいときになに茶なんざ淹れてやがるんだ」

「……そんなに忙しいなら、人を増やせばいいのに」

「無闇に増やすわけにもいかねェんだよ」

「まあ、色々あったようですからね。でもそしたら、私みたいな使えない小娘、いても邪魔なだけじゃないですか? それとも、今は猫の手でも借りたいというわけなのでしょうか?」

「猫の手ってほど可愛い手はしてねーだろォよ、オメーは。それに、お前が使えねェなら、誰入れたって使えやしねェよ」

「思ってもいない癖にそんなこと言わないでくださいな。近藤さん目当てで入るってことで、土方さん、最初猛反対してたじゃないですか」

「まあ、確かに剣の腕にゃあ問題はあるが、それでも自分の身くらい守れるだろうしな、それに、お前程金勘定ができるヤツっていうのが、現状ではうちにいないのも確かだ」

「変に褒めないでくださいよ。気持ちが悪い」

ついストレートにそう言ってしまったが、土方さんは気を悪くする素振りも見せず、話を続ける。

追加を渡したらすぐいなくなればいいのに。この人本当、なにしにきたんだろう。

当たり前みたいに人の部屋に居座って、そんなに忙しいなら仕事しろ。とも思うのだけれど。

「とにかく、オメーは自分で思ってるほど、使えねェ事ァねーっつーことだ」

「ははあ、なるほど。土方さん、あなた実は山崎さんがお茶を持ってきたの知ってたでしょ」

「なんの話だ」

「下手するとお茶を淹れさせたの土方さんでしょう。嫌になるなあ」

誕生日なのに、人の心配なんてして。それこそ忙しい癖に。

父から何か言われたのだろうか。この人がなにもなく、私のような者の心配をするようにも思えない。

そんな冷たい人ではないけれど、私にとっては特別、暖かい人というわけでもないはずで。

私は土方さんに、そこまで興味はないし、彼だってそのはずで。

「まあ、でもつまり、頼りにはしていただけてるんですね」

「このクソ忙しい時に辞めようだの考えてるんじゃねェ。無駄なこと考える暇があるなら手を動かせってことだ」

「わかってますよ。わざわざありがとうございます」

でも、まあ。それが家族なのかなあ。とは思う。

私は別に父に興味はないし、父だって私に興味があるわけでもないけれど、遠回しに様子を伺うし、だから土方さんだって、遠回しに私の様子を伺うのかもしれない。

特別ではないけれど、彼は私には、普通に暖かい人なのかもしれない。

当たり前になってきて、気付けていないだけで。

「逆に、土方さんは、あんまり頑張り過ぎて、身体壊さないようにしてくださいね」



来年もゴールデンウィークに休みはなさそうだけれども、家族に誕生日プレゼントくらい用意してみようか。

この人の場合、マヨネーズでも渡しておけばそれで喜んでくれるだろうし。



2014/05/06
特に意味もないし、誕生日関係ないよねって話でごめんね土方さん!誕生日おめでとう!しかも一日遅れたっていうね!ごめんね!
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -