その余地はなく
ふむ。と、彼女は疲れたかのように、ため息をついて、何かを悩んでいるようだった。
「んー、泣くほど好きだったのに、なんで告白したんだろうね、私は」
オレの好きな子は、そんなことをポツリと呟くと、本当に不思議そうに首を傾げる。目は腫れているし、泣き顔はさっき見た。そばにいられるだけで幸せだったのになあ。なんて、今のオレか。とでもいう話だ。
泣きたいのはオレだって同じなのだけれど、それでも泣けないのだから彼女があの子を愛していたほどには、オレは彼女を愛してはいなかったのかもしれない。
「知らねーケド、告りたかったからじゃねェの?」
「うんそうだね。フられるのはわかってたんだけど、それでもね、抑えられなかったというか」
「まー、あるよな、そういうの」
オレにはわからないけれど。
なにせオレは、抑えられている。彼女に告白しようとなんて、きっとオレは絶対にしない。
「んー、なんでこう、性別ってあるのかね」
「さあな」
そんなもの、オレだって知りたいのだが。
性別さえなければ、オレがここまで、"泣けないほどに"あっさりと失恋を受け入れることもなかっただろう。
彼女はオレではどうしても駄目だと、思うこともなかっただろう。
「あーあ、カタツムリはいいなあ」
「あー、まあ、確かにな」
彼女にとっても、オレにとっても。
「あー、そうそう、昔から思ってたんだが、ハルナってバイの素質あると思うよ」
「なんで今言った。なんだよそれ、全然嬉しくねーっつの、そんな素質」
バイだろうが、なんだろうが、女を好きになるのなら、オレが彼女を好きなのは変わらないし、それならまだ、彼女にバイの素質があった方がよかった。
話を変えたかったにしても、彼女の話題選びは壊滅的におかしい。
「つーか、ホモの素質じゃないンだな」
「ハルナは女の子も好きだもんね」
「今までにオレが男を好きになったこともあるような言い方やめろっつの」
手の届くところにあるはずの彼女の手をオレは握れない。すぐそばの頭は撫でられないし、その体を抱きしめることもできない。
彼女が、相手がノンケだと嘆くのと同じで、オレだって全く異性に興味がない彼女を相手にしているのだから、まるで自分だけが不幸みたいに思うのは本当にやめてほしいものである。
「え? 好きになったことない? マジで?」
「なんだよその反応」
「ま、きっと一生に一度くらいあるよ。例えハルナがノンケでも、オトコにときめくことくらい」
「お前はそれを狙ってノンケを好きになるわけな」
「女の子って、特にそっちに転がりやすい部分あるしね。バカなのさ。いい意味で」
「あっそ。じゃ、そンなら、お前もいつか男も好きになンのかもな」
「いや、それはないかな」
そう彼女は即答したけれど、オレが彼女の、一生に一度の相手になれたらどれだけいいだろう。
「大丈夫。ハルナの運命相手は、きっと女でも男でもいい人だよ、きっと」
2013/12/31
なんでよりによってこんなの今年最後に書いたんだろうね。ちなみに帰りの電車で書きました。後悔はきっとしていない。