矛盾異性交遊
「諦めなよ。あんた女運無いんだしさ。恭平くんのが優しいし、あっち選ぶ方が私は納得出来るなあ。」
「あのさ、普通あんたにもいいトコあるとかって慰めねー?ヒッデー女」
高校に入って二度目の失恋。それをどこで聞きつけたのか、別の学校に通う彼女は意気揚々とオレのうちに訪ねてきた。
「つか誰に聞いたわけ?誰にもアイツが好きって話してねーンだけど」
「もしもしお兄さん?分かり易すぎて恭平くん気付いてますよ?」
げ。と思うと同時に、人が失恋したというのに、こんなに楽しそうにしてられる、そんな彼女の神経を疑う。
へらへらにこにこ。
こんなに空気の読めない奴じゃなかったハズだ。オレが中学ンときに怪我したときは、もっとちゃんとしてたし、むしろ普段だってこんな笑う奴じゃない。
となると、コイツ、オレが失恋したのを楽しんでやがるのか?
「ホント、ひでーヤツ」
「心外だなあお兄さん。私は慰めにきたんだよ?」
「そんなヘラヘラしてるヤツ信じられっかっつの」
「身体で、慰めにきたんだよ?」
とうとうコイツ頭がおかしくなったか。
そう判断を下す前に、オレの口からは、はあ!?という動揺を表す言葉が飛び出していた。
彼女はそんなオレを見て、先ほどとは違う。にっこりという笑みを浮かべる。
「ほら、失恋には新しい恋って言うじゃん?知らない?女の子の中では常識だよ?」
「だからっていきなり……なにオマエオレんこと好きなわけ?」
「うん」
だからあんなににこにこしてたのか。
引き続き動揺しながらも、微妙に冷静さを取り戻したオレは、少し納得していた。
どうりで、オレが宮下先輩の話をするのを嫌がったわけだ。中学ンときオレにべったりだったのもそのせいか。中学の監督に正面切って怒鳴り込みにいったのも、オレの誕生日には必ずオレの一番ほしいものをプレゼントしてくれるのも、全部そういうことか。
「だからって、オンナが普通……」
「いや、それは冗談なんだけどね」
「は?どこまでが?」
「え?身体云々がだけど、シたい?」
即座に首を横に振れなかった。振ることを躊躇ってしまったオレに気付いたのか、彼女は照れくさそうに笑った。
笑顔のバリエーションすげー。とか関係ないことを考えながら、オレは無意識に彼女を抱き締める。
思い返してみれば、だ。
宮下先輩の笑顔も、アイツの笑顔も、全部惹かれたのは元はコイツのせいじゃないか。
二人を好きになった理由は、もちろんそれが全てじゃない。それでもいつからだったか。とにかく喧嘩ばかりになって、あまり見せなくなった彼女の笑顔を二人求めて、重ねてた部分だって間違いなく存在した。
「榛名?」
腕の中で彼女が不思議そうにオレの名前を呼んだ。
彼女が別の学校に行ってしまったのは、オレが突き放したからだ。彼女が笑わなくなったのも、オレが。
「オレは、オマエの笑ってるカオが一番好きなんだよ」
「なに、それ。くさ。大体これじゃ顔見えないじゃん」
だってオマエ今泣いてンじゃねーか。なんて言えなかった。泣かせたのもオレ。でもきっと彼女を笑顔に出来るのもオレなんだろう。
「榛名、私のこと好きになってくれたの?」
「ずっと前からな」
意味わかんない。そう呟いた彼女を強く抱き締めた。
「オレだって、意味わかんねっつの」
2010/08/25