夜で壊す/高杉


日が昇り、夜が明けていく。いつになればこの空は、昔のようにまっさらな空に戻るのだろう。

あれだけ綺麗に見えた星達が、空に浮かぶ船や、眠らない街の放つ光で、不粋に覆い隠されている。



「いっそ、アンタみたいに宇宙へ行った方が良いのかもしれないね。そしたら何にも邪魔されずに、星を見ることが出来るかもしれない。」

「星が見たい、か。相変わらずだなァ?」

「まあ、最近じゃ、夜空も少しは静かになったもんだけどね。船飛ばすのにも規制かなんかかかったみたいだから。」

「そうらしいなァ。俺にゃ関係ねェが。」

「それでも綺麗な空が見えないのはさ。調子にのって、地球人が天人の技術を多用したからだよ。田舎に行けば夜空には綺麗な星が見える。」

独り言のようなものだった。高杉の返事も、まるで独り言かのように吐き出されている。

私は昨晩、本当にたまたま、高杉を拾った。高杉は血だらけだったが、怪我はしていないようで、ただ、とても疲弊していたらしく、私の家に着くと、すぐに眠りについた。

そして先程起きて、今は私の隣で夜明けを見つめている。

「何があったかはきかないけどね」

「聞かねェか。オメーらしいなァ」

「巻き込まれたくないからね。でも私も、アンタと同意見だよ。天人が悪いんじゃなく、世界が腐ってるんだと思う」

「それでも共には行かねェか。」

「巻き込まれたくないからね。」

うざったいネオンサインもそろそろ消えるだろうか。防犯だの安全だのの為に等間隔にならんだ街灯を全て割ってしまいたい。

巻き込まれたくないわけじゃない。力があれば世界なんてこの手で壊してやりたい。私はただ、高杉の邪魔をしたくないだけだった。

「世界が壊せなくとも、私はアンタを責めないわ。私は何もしてないんだもの」

「ぶっ壊してやるさ、誰がなんと言おうとなァ」

「それは頼もしいことで。アンタまで壊れたら、許さないから。綺麗な空の下でまた会おう。」

私の言葉に、彼はククッと喉を鳴らすだけで、はっきりとは答えなかった。

私はそれを勝手に肯定として受け取り、すっかり明るくなった空を見上げる。

「こうやってアンタの誕生日に会えるのが、最後にならないといいんだけどね」

「また会えるだろォよ。今度はたまたまじゃなく、ちゃんとテメーを迎えにきてやる」
「楽しみに待ってる。」

彼は、プレゼント代わりにとでも言うように私の唇を奪い、にやりと笑う。

相も変わらず、愛があるのか疑ってしまうような乱暴な口づけだったが、信憑性だけはあるのだろう。

「高杉、誕生日おめでとう」

綺麗な空の下で、きっとまたこの言葉を贈れますように。


2010/08/10
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