墓場まで/坂田(死ネタ)


「病室から抜け出した彼女が、どこにいるかなんて、彼にはわかりきっていた。不治の病、天人特有の物らしい。彼女の一族は、その病気で彼女を残して全滅していたし、彼女の発症だけが遅れていたのが不思議なくらいであった」

彼女の口から紡ぎ出されるのは、まるで第三者が俺たちのことをみているかのような"文章"であった。

「しかし、天人特有の病気といえども、地球人が感染しないとも限らない。治療法が見つからない以上、彼女がそれを選ぶのはわかりきっていた」

「……オメェがどんなに死ぬ気だろうが、死なせねェぞ」

「……あら、いたの」

ただ歩くのすら辛い筈の彼女は、長い階段を登り、屋上のベンチで空を見上げていた。

飛び降りるわけではないこともわかっている。

彼女が、俺を待っていたのであろうことも理解していた。

そんな彼女は、こちらに背を向けたまま、俺の顔も確認せずに話を続けた。

「でもね、銀時。これしかないのよ。もしこの病が地球人に感染したらどうなると思う?」

「感染した事例はねェんだろ? オメーが命を投げ出す必要は……」

「私がいるのって病院よ? 抵抗力が落ちてる地球人が沢山いる。それに、いろんな天人が入院している。なにを媒介にして、感染するかもわからないのに、私が生きてるわけにはいかないでしょ」

「そんなもんなら、なんでお前が出歩けるようになってるんだよ。んな問題あるんなら、隔離病棟にでもいれられる筈だろォが」

「誤診してるからよ。何度も言ってるでしょ?」

事実を知ってるのは、銀時と私だけじゃないの。

彼女はあっさりとそう言って、続けて、過去にあった病だと思った方が、怖くないものね。と、嘲笑する。

「お医者様は、治るって言ってるわ。ただ、私にはわかる。これはこのまま良くならないで、私は死ぬ。結局死ぬなら、迷惑にならないうちに死にたいの」

「オメェの自己診断の方が間違ってるかもしれねェだろ。なんでそう死に急ぐんだよ? そんなん急いだところでなんの得もねェぞォ」

「でもね、銀時も、そうすると思うよ」

しかも、誰にも相談もせずね。とニヤリと笑う彼女。

「だから私の方がマシだよ。銀時に、死ぬからって言ったもの。あなたって猫みたいな人だから、誰にも知られないところで死んじゃいそう」

「適当なこと言って誤魔化そうたってそうはいかねェからな」

「お願い死なせてよ。正直、親兄弟、友達も親戚も皆いないんだもの。私が思い残すのなんて、銀時を哀しませるのが辛いってことくらいなんだから。まあ、とにかく、血液ぶちまけるような死に方は危ないかもしれないし。今日の夜、私病室で死ぬから。銀時が優しいならこれは私とあなたの秘密」

今までありがとう。ごめんね、実は愛してた。そう呟くと、彼女はベンチに横たわるように、崩れ落ちた。

あれだけ話していたのだ。普段の状態から考えれば、寧ろよくもったものである。

良くなる良くならないの話ではなく、普段の彼女の病状はあまりにも酷い。治るだのと嘯いてる医者を殴りたくなるくらいだ。彼女はただ、身体が辛すぎて死にたいだけなのかもしれない。

思えば、彼女の秘密を守ってやったことなんて今まで一度もなかった気がする。新八と神楽に誤診の方を伝えてくれと言った彼女の言葉を無視して、二人には事実を話してあることもその一つである。

それはまあ、誤診の方を話した後に、二人が嘘をつくなと掴みかかってきた為でもあったのだが。

そして、その代わり、彼女に対するそんな秘密は日を追うごとに増えていた。

それならば、彼女の最期の秘密くらい、守ってやるべきなのだろう。

死因がわからないように、上手く死ぬつもりなのであろう彼女が、自殺したことくらいは、墓場まで持って行ってやるべきなのだ。

「さて、と」

気づかれないうちに病室へ戻す為に、ぐったりとした彼女を背負ってやる。



「寂しがるなよ。俺も多分、すぐそっち行くだろうから」

なんとなく、口から出たその言葉に、彼女が小さく頷いた気がした。




2013/09/21
劇場版の坂田が許せなさすぎて書きました。ずっと許せません。なんで誰にも言わずにいなくなるの。
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