ヴィーナスは眠り続ける/臨也


「日常に飽きる度、とりあえずで恋愛ごっこしようとするのはやめた方がいいんじゃない?」

と、折原は言った。

目の前で紅茶を啜る彼女に、忠告するような口調で、尚且つ、日常会話でもするように、何気なく。

「別に、恋愛ごっこじゃないよ。ちゃんと好きだよ。あの人のコト。だからフられても諦めないんだし」

「いやいや、千紗子ちゃんのは、フられても諦めないじゃなくて、フられて、諦めない為に告白するだけだよね」

「何それ。そんなの普通の人から見たら、特に違いはないと思うけど」

「違和感はあると思うよ。よっぽどバカじゃなければ、この説明で皆理解するだろうし。まあ、今回の彼が、そんな君に騙されない人だといいんだけどね。君は顔だけは良いから心配だなあ」

彼女のそれは、恋に恋をしている。なんて可愛いものではないと、折原はそう思っていた。

きっと、はたから見れば面白くはあるし、彼も、それをどうにかしようと思っているわけではない。そもそも彼自身はそこまで面白いと思っていない、寧ろどうでもいいとすら思っているのも事実だ。

つまり、彼女と彼のこの会話は、ただのじゃれ合いなのである。

「というか、そもそも恋愛なんて、過程を楽しむものでしょうに」

「そんなのは皆中高生で卒業するものだけどね。大体君のは、過程を楽しむってのともちょっと違うだろうし」

「そもそも折原は失礼だよね。私だってちゃんと恋くらいするのに」

「君には、"ちゃんと"なんて一生出来ないよ。ある意味、シズちゃんと同じで、根本が他の人と違うんだから」

「あのバケモノと一緒にされるのは不愉快だわ。どちらかといえば、性格的におかしいってところは折原のが近いんじゃない?」

「いやいや、千紗子ちゃんはシズちゃんの方が近いと思うよ。オレはこうあろうとしてこうだけど、君もシズちゃんも、そうあろうとして、そうなわけではないでしょ? 嫌で仕方ないのに、それでもその性質から逃げようがないくらい、千紗子ちゃんは人を想えないし、シズちゃんは"ああ"だ。君達はね、どんなに人の真似事をしても、人間にはなれないよ」

「なんていうか、折原って、私のこと嫌いだよね」

「まあね。それで、君は誰も嫌いですらないよね」

折原のその即答に、彼女はあからさまに不愉快そうにため息をついた。

「つまり、私は折原からみたら人間じゃないのね」

「だからそう言ってるじゃない」

「折原だってマトモに恋なんて出来ないのに」

「でも、しようと思えば出来るだろうねえ。君がしようとしても、出来ないのに対して」

人間のフリするのやめたら? と折原は笑う。

それに対して上手く傷付くことすら出来ない彼女は、薄々気付いていたことを"これでお別れになっても構わないかなー"と思いながら口にした。

「話は変わるけど、折原、中学の時は、わりと私に気があったよね」

「君が俺に気があるフリをしてたからね。迷惑な話だよ、まったく。で、それが何?」

「なんとなくはっきりさせときたくて。なんていうのかな。私は、その事実だけで、自信を持って一人でいられるよ。ありがとう」

それは、野良猫や、野良犬に好かれていることに、誇りを持つような。そんな軽い言い方だった。母親が子供を思っていうのですらない。そして、化け物風情が、吐くような言葉ではない。しかし、人間が人間に対して思うことでもない。そんなニュアンスを含んだセリフである。

そして、彼は、彼女が本当に恋を諦めるのかはわからないが、何をしたって上手く出来ないことは明白だと思いながら、今日でお別れをする彼女に、一言。帰ったら? と提案する。

「イマドキ、化け物だって、恋が出来るのにね。私は化け物以下なのか」

知り合いの恋人を思い浮かべながら、彼女は、呟いた。

「そんなに嘆くことはないよ。君には首があるんだから、傍目には化け物なんてバレないし、普通に生活していけるでしょ?」

「それもそうね。それじゃあね、折原。私からは二度と会いにこないだろうけど。よかったらまたね」

「街でたまたま会ったら声を掛けるよ。じゃ、気をつけて」



2013/05/02
だから何って。それでもイザヤならなんとかしてくれるかもなあ。なんて甘い考えのヒロインです。イザヤをわかってない感じの子が書きたくてこんなことになりました。
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