高校生のいる教室


オレだって年頃の男子高校生なわけで、野球がどうとか、プロがどうとか、そういう事だけじゃなく、それなりに気になる女がいたりする。

そんなクラスメートの女子が、オレの部活が休みの日の放課後、自分の席に座って(彼女の席ではなく、つまりオレの席に)寝ていたら、誰だって驚く筈だ。誰だって、そう誰だって。例えば、あの秋丸だって、加具山先輩だって、タカヤなんて言うまでもなく。当然、キスしたいってくらい思うに決まっている。

すなわち、オレは悪くない。こんなところで無防備に寝ていたコイツが悪い。可愛い寝顔を惜し気もなく晒してたコイツが悪い。もう一度キスしたくなるのは、つまりそれでも起きないコイツが悪いわけで、オレが悪いなんてこと、あるわけがない。

そこまで考え、とりあえずオレは、少しでも責任から逃れる為に、中々起きない彼女に声をかける。これさえ言っておけば、丸く収まる気がした。多分、タイミング的には遅いのだろうが。

「起きろよ。起きねーとキスすんぞ」

既にした後なのだが。彼女はやはりそれでも起きなかった。なのでもう一度キスしてやろうと顔を近付けると、彼女の口が、小さく動いた。コイツ、いつから起きてたんだよ。

「一回したでしょ。もう駄目だよ」

「オマエ、いつから起きてたんだよ」

「うーん、秘密。一回目は起きなかったからしたって事にしといてあげるけど、二回目はそういう事にはしてあげないからね」

二回目はそういう事にしてやらない。それはまるで、二回目ばベツの意味に捉えるよ。と言っているようだ。そしてふと気付く。いつも余裕そうな、彼女の涼しい顔が、今日は少し違うという事を。窓から差し込む夕日のせいではなく、彼女の顔はほんのり赤かった。

「二回目はどういう事にするっつーンだよ」

「自惚れる」

更に赤くなった顔を隠すように、彼女は俯いた。オレは思わずそんな彼女の腕を無理矢理引っ張り、椅子から立ち上がらせ、抱き締めた。彼女の体が緊張で硬直しているのがわかる。

「榛名、ちょっと、私の言葉聞いてた?」

「聞いてたっつの。なあ、オマエ、なんでオレの席座ってたんだよ」

「榛名がどんな景色見てんのか気になったの。なんか悪い?」

「悪くねェよ。スッゲ可愛い」

オレの台詞に照れたのか、それともその前に言った自分の台詞が恥ずかしくなったのか、彼女はそれきり話さなくなった。ゆっくりと身体を離し、彼女の顔を見れば、真っ赤になってオレから目をそらす。

「とりあえず、自惚れさせてやっからこっち向け」

「や、やだ!」

「こっち向けよ。怒んぞ」

そう言ってやると、彼女はビクッとし、ゆっくり顔を正面を向く。真っ赤な顔。眉間にシワが寄らない程度に固く閉じられた瞳に、ピンク色の唇。少し気を抜くと、理性が吹っ飛んでしまいそうだ。肩に置いたままの手に力を込めて、ゆっくりと顔を近付けた。そして、オレと彼女の距離が漸くゼロになる。先程のとは違う落ち着いたキスにオレは彼女の唇の感触に集中してしまい、その艶かしさに理性が崩れ去る。気付けばオレは彼女を床の上に押し倒していた。

「榛名。ちょっと、さすがにそれはストップかな」

「無理。止まんね」

「いや無理じゃないから。私の方こそ無理だから」

「こんなとこで寝てるオマエが悪いンだよ。諦めろ」

そう言って彼女の耳に触れてみれば、彼女は異常な反応を見せる。ああ、コイツ耳が弱いんだっけ。それでクラスの女子に触られてた気がする。涙目でオレを見上げてくる彼女は官能的で、いくら泣かれても自分を止められそうにない現状。というか、コイツが泣けば泣くほど止まらなくなる気がする。

「榛名やめようよ。教室だし。まだ運動部やってるとこあるし、見られたらやだ、」

「なんでだよ。オレは寧ろ見せつけてーんだけど」

「榛名以外にこんなとこ見られたくないの!」

ああもう、今日の彼女はやたらと素直で可愛いじゃないか。それがまたオレの理性を狂わせるのがわからないのだろうか。でもそんなこと言われたらこんなところでヤるわけにもいかない。仕方なくオレは立ち上がり、彼女の腕を引き、立ち上がらせ、もう一度彼女にキスを落とした。

「じゃあオレン家行くぞ」

「う、うん。あのさ、榛名」

「ああ?」

「榛名は私のこと、好きってことでいいんだよね?」

とりあえず、家までの辛抱だ、頑張れオレ。上目遣いで聞いてくる彼女に、好きじゃなきゃキスなんてしねーよ。行くぞ。とだけ答えると、鞄を持って教室を出る。待って!と置いていかれないようにと自分から手を繋いでくる彼女相手に、オレはどこまで耐えられるのだろう。自分の家まで耐えられる自信は、限りなくゼロに近い。



2013/02/03
2009年06月に更新したものを再録。榛名が若い。多分私が若かったからですね。
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