バカふたり


「いらっしゃいませー。って、あ、榛名」

「あ、平尾。なんだオマエ、ここでバイトしてたのかよ」

ファミレスで働いていると、中学の時の同級生である榛名がきた。

榛名元希。中学では三年連続同じクラスだった男子で元野球部の投手。二年の途中で身体を故障して、野球部を辞める前までは、かなり仲の良かった男子だ。部活に入っなかった私は、しょっちゅう榛名を見に野球部に行ってたりもした。

「なに? 榛名学校この辺だっけ?」

「あー。武蔵野第一」

「ふーん。まだ野球やってんの?」

「まだってなんだよ。辞めるわけねーだろ」

辞めかけた癖に。と言えるわけもなく、あっそう。とだけ言い、榛名を席へ案内した。他に人は来るのかと聞いたところ、一人とのこと。注文はドリンクバーだけらしく、それだけで会話は終了した。時刻は二十一時近い。私はそろそろ上がりだ。





時間が少し延びたので、服を着替え終わったのは三十分を過ぎたところだった。

榛名がいた席を見ると、当たり前だが、彼はまだそこにいた。ただひたすら一人でドリンクを飲んでいるなんて寂しい奴だと思い、一応、私帰るから、じゃあね。と声を掛けてみると、彼は相変わらずのオレサマ口調の上から目線で、

「帰っていいなんて言ってねーだろ。そっち座って付き合えバカ」

と、私に命令。

少しムッとしたが、何だか元気も無いようなので、大人しく付き合ってやることにした。

仕方なくバイト仲間にドリンクバーとスパゲッティを注文。夜飯をまだ食べていなかったからだ。それからドリンクをとってきて、話を聞く体勢を整える。

「で、また部活で何かあったの?」

「はあ? ベツになンもねーよ」

「それとも失恋とか?」

冗談で言ったつもりだったのだが、榛名が盛大に吹いた。どうやら図星らしい。

きったなー。と言いながら、私はとりあえず手持ちのハンカチで濡れた服を拭う。斜め前にに座っていたので、あまり濡れてはいないようだ。

「あー、失恋なんだ?」

「うっせ、オマエにはカンケーねーだろ」

「ふーん」

カラリ。榛名のコップに入っていた氷が、溶けて動き、音をならした。

さて、どうしたものか。

とりあえず適当に当たり障りのない話を続けようと、私は口を開く。

「うん。でもさ。こんな吹き出し方するやつ、今時いないよ。榛名は凄いね」

「それ褒めてねーだろ! つーか話の続け方が白々しいんだよ!」

「じゃあ、なに?どうすればいいの?」

「……そ、れは……。……別に、笑いたきゃ笑えよ。笑ったら容赦しねーけど」

「どっちだよ」

ツッコミながらも、仕方なくどう慰めてやろうかと頬杖をつきながら考える。眠くなってきたので欠伸をしたら舌打ちをされた。

「榛名はかっこいーよ。その内いいこ見付かるって」

「オマエに言われても説得力ねーっつの。ぜってー適当に言っただけだろソレ」

「本当だって。私が今まで友達になった人の中で、榛名が一番かっこいいと思うし」

「なんか気持ちわりーな。どうしたんだよ、いきなり」

「まあ、アンタほどバカだと思ったやつもいないけどさ」

んだと、てめえ! と声をあらげる榛名はやはり単純バカだ。そんなバカをみて感じることは、昔の榛名に戻ったという安心と嬉しさ。

思わずニヤニヤしてしまう。その上ちょっとした庇護欲までそそられる私も、多分、相当なバカだ。

「まあ、なに。今日は私が奢ってやるから、まあ元気だせって」



2013/01/17
2009年の五月のものを再録。本当に最初の頃に書いた奴です。少し手直しはしましたが、ほとんど当時のままになってます。というか、榛名を好きになって、もうこんなに経ってるなんて変な感じです。
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