それに名前をつけるなら/燐


どうしたんだよ。と、彼は困ったように言った。困らせたのは私で、彼が困ることもわかっていた。

私の下にいる彼は、私に押し倒されている彼は、私に寝込みを襲われた彼は、一体、今私をどう思っているんだろう。

悪戯だと思っただろうか。それとも、私を変態だとでも思っただろうか。

前者は否定するし、後者も出来たら否定したい。

私は燐の子供が欲しいだけだから。




私と燐は、小学二年生の時に出会った。小学校二年の時に同じクラスになり、ドン臭い私はクラスで浮いていたから、同じように浮いていた彼と仲良くなるのは、ある意味当たり前のことだった。

そして、私と彼が五年生に上がった年に、事件は起きた。燐の喧嘩に私が巻き込まれて、顔を殴られてしまったのだ。

私を殴った子を殺すんじゃないかって勢いで燐が殴るものだから、私が咄嗟にあいだに入って止めたのだけれど、燐もこの頃はある程度は力加減が出来るようになっていたし、私の制止なんて必要なかったに違いない。

とにもかくにも、私はそこで燐に怪我をさせられてしまった。燐は悪くなくて、悪いのは私だった。一日意識を失って、翌朝病院で目が覚めた時には世界が変わってみえた。

私はその日から、悪魔のいる世界で生きていくことになったのだ。

頭がおかしくなったんだと思って、とりあえず暫くは家に閉じこもった。

入院中に謝りにきた燐とは目をあわせられなかった。なんとなく、気まずかった。うちの親は別に、こんなことがあったからといって燐ともう遊ぶな、なんて言わなかったけれど、それでも私は遊ぶ気が起きなくて、学校戻ってからも、あまり話さなくなった。

そして、中学二年生の時に、ちょっとしたことがあり、たまたま燐の弟の雪男くんにもそういったものが見えていることを知り、まあ、色々あって、燐が魔王の息子だということも知った。

しかし、私は馬鹿だったからか、悪魔を初めて目にした時のような衝撃は受けなかった。

恐いモノだとか、そう思う筈で、それなのに思考が追いつかなかった。

そして、彼が悪魔になったと知った時、その当たり前の事実に漸く気が付いて、恐くなって。

雪男くんの薦めで祓魔師の学校に通うことになり、そこで彼と再会しても、最初は上手く話せなかった。

燐はきっと、それに気付いてたんだと思う。わかりやすく優しかった。そのわかりやすい優しさに、漸く気付けた時に私は泣いた。

一人でみっともなく泣いて、その後、燐に謝った。その日も燐は困った顔をしていた。




それから少しずつ彼との溝が埋められていった。前より彼が大切になった。だから改めて私は、自分が彼にしてあげられることを考えてみた。

私は悪魔じゃなくて、燐とは友達だけれど特別ではなくて、それでも彼の抱えている何かをわかってあげるにはどうしたらいいか。

そして至った結論が、魔王の血をひく彼の子供を持ったら、そういう人間の親だったら、少しは気持ちがわかるのでは無いだろうかという物だった。

子供には酷いモノを背負わせることになるし、燐には間違いなく迷惑をかける。自己満足なんて生易しいものじゃないエゴの塊のようなアイディア。

でも、それしかない気がして、それを実行するとかしないとかはおいて置いて、そんな私の馬鹿げた考えなんかを全部燐に受け止めて欲しくて、そして、こうなったのである。

で、大変なことに気が付いた。



「あのね、今更、気付いたこと、言っていい?」

「お、おお」

「私ね、色々結構考えてこんな事してるのね。燐の子供欲しいとか、そういうこと考えて、こんな事になったんだけど」

「は? え? はあ?」

「うん。はあ? だよね。わかる。わかるよ」

「……で、何に気付いたんだよ?」

「私、ね。燐のこと好きみたい」

口に出したら恥ずかしくなったので、燐の上からゆっくりとどいた。

燐はとりあえず、といった感じで起き上がり、私を見つめて、もう一度、は? と言った。

「ホント、気付いてびっくりしたよ」

「いや、びっくりしたのはこっち……」

「付き合ってほしいとかじゃないの。ただ、私、燐には幸せになってほしい」

「お、おお……」

「でも、出来たら私が幸せにしたい」

「おお……」

「ドン引きしたよね」

「最初から全力でドン引きしてるけどな、でもまあ」

「まあ?」

「嫌じゃねえ……から」

燐は顔が赤くて、私もきっと顔が赤くて。

でっ、でも、子供は今度な! いつかな! と、彼は彼はベットから降りてて、私の腕を引っ張り、こちらもベットから降ろした。

それに乗じて、バランスを崩したフリをして彼に抱きついてみる。彼は抵抗しなかった。

子供なんていなくても、これで、もしかしたら、少しは彼を守れるかもしれない。そういう立場になれたかもしれない。

それだけじゃダメなのをわかっていない、私はまだそんな子供だけれど。親になんてなれっこないガキだけれど。

それこそ、ちゃんと子供を持てるようになるまで、二人で成長して行こうと思った。

背負うためじゃなく、抱きしめるために子供は望むものなのか。




2013/12/31
青エク書くと、ヒロインが大抵暴走気味になる気がします。
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