体温計と年を越す(榛名成人後)


今朝のことである。

「……通りで」

控えめな音で、ピピピと鳴った体温計が、身体の故障を明確にさせた。

「折角今日から休みだってのに、もー!」

と、叫ぶ気力もなく、ベットに倒れこむ。

今日、高校時代の友達らと忘年会する約束をしていたのに。それもキャンセルしないと。

そう思って携帯に伸ばした手は、目的を果たせないまま力尽き、私はそのまま意識を手離した。

寒くて寒くてたまらないのに、これだけアッサリ寝られたということは、多分体調不良の原因は、寝不足と疲れだったのだろう。

そして、今、榛名からの鬼電で、私は漸く目を覚ましたのだった。時間からして、多分忘年会は終わったのだと思う。これだけ寝るのは久しぶりだった。

「もしもし……」

鼻声で電話にでれば、榛名は、何かあったわけ? と、開口一番にそう言った。

「あー、約束ごめん。体調崩しちゃって、朝はホント酷くて、電話もできなかった」

身体に気を付けろっていつも言ってんだろ。と、そんなことを言われた。

確かに、それはよく言われる気がする。

人の身体を気にすることが出来るようになったなんて、榛名は私と違って大人になったなー。なんて、殆ど聞き流してたけど。

「今帰り? 早めに終わったんだね。あ、抜けてきたんだ? うん。新年会は是非ともやろう。ごめんね。いや、こなくていいから。大掃除してないから汚いし、うつすの悪いし」

というか、人に構う余裕もないので、こられても困る。

人と話すだけで体力使うのに、榛名が来たらもっと疲れると思う。

「風邪薬あるから飲むよ。平気。寝る前より熱下がったし。あんたは私の親か。大丈夫だって。うん、うん。寝るよ、無理なんてしないよ。わかったってば」

ベットから起き上がらずに話しているし、相手からは、見えないかも知らないが私はまた寝る気満々である。

だから、嘘はついていない。

「ホント、今日はごめんね。うん。……え? 今なんて言った?」

いや、聴こえてたんだけどね。もう一回言わせたくなった。

「わかった。来ていいよ。でも一瞬だけしか会えないからね」

この電話で、良いお年をと言って終わりにする筈だったのに。

そう思いながら電話を切る。

「今年最後に会っときたかったのは、私も同じだけどさー」
寝返りをうち、壁に額を軽くぶつけながら呟いた。

「そういうこというくらいなら、早く告って欲しいもんだよね」

大人になったとは思ったけれど、まだまだその辺はガキなのかもしれない。お互いに。

年が明ければ何か変わるだろうか、なんて、時間に任せているうちは何も起こらないのを知っているのだけれど。

私は未来に期待することしか出来ないのだった。

そして、呼び鈴がなる。

「うわ、来んの早……着替えてないよ……」

覗き穴から彼の姿を確認して、ドアの向こうに寝間着のままだと伝えれば、何故か当たり前だろ。と言われた。

そのことに安心して、私はドアをあける。

「やっほ。今日はごめん」

「皆心配してた。遅刻はしても連絡とれねーことはねーし」

「申し訳ない……」

「つーか、顔まだ赤いな。それで熱下がったって、最初どんだけあったんだよ」

「それはもう、やばいくらい。てか、榛名も顔赤いよ。酒臭い」

「しょーがねーだろ。あー、冷えピタだけ、そこのコンビニで買ってきたから、これ貼って寝ろよ。ンでまあ、」

「ありがと。ていうか、電話どっから掛けてたの」

「コンビニから」

「お会計とかしてたからたまに変なこと言ってたんだ。で、なに?」

「あー、良いお年を」

「ああ、うん。良いお年を」

それだけのやり取りで、ただでさえ高い体温が、もっと上がった気がした。貰った冷えピタを貼ったら、それこそ体温上がるんじゃないのかとか、バカみたいなことを考えながらも、薬を飲み、水分を少し補給し、ベットに潜る。

「良いお年を迎えるために、とりあえずこの状態から抜け出したいんだけどなあ」

まあ、正直言えば、来年だって、榛名に会えれば良いお年になるのだけれど。



初詣では、恋愛成就でも願うべきなのかもしれない。



2012/12/31
昨日からお休みなのですが、頭痛いです。昨日、友達二人と軽く忘年会をしたのですが、そんな飲まなかったんで、二日酔いではないと思うのですが。では皆様良いお年を。
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