言わば脳天直撃である
頭を撫でられると、ときめくって友達がいる。
そいつが好みのタイプでなければ、撫でられてる間だけときめくだけにとどまり、好みのタイプであれば惚れてしまうらしい。
「すげーなアイツ。そんなんなのか」
「頭撫でられフェチっていうのかな? わからないけど」
「今度やってみっか」
「やめとけ。どうせ撫でてる間しかときめかれないのが落ちだから」
嘘である。やってみるかと言った彼だが、この間、あの子が彼にノートを貸してあげた時、彼はあの子の頭をバッチリ撫でている。サンキューな。と言う台詞付きで。
そのせいであの子はこの馬鹿に惚れたのだ。私はと言うと、あの子がそんなことを私に告白してくれたせいで、完全に言うタイミングを逃した。何をとは言わないが。
まあ、そんな彼女が、この度他の人に惚れて、上手くやって付き合ったから、私は榛名にこんな話してるわけなんだけど。
「つーか、頭撫でられんのってそんなにいいもん?」
「私もなんとなくわかるけどなあ。ときめくとかはないけど、よく知ってる人なら安心するし」
「へえ」
と言いながら、榛名がこちらに左手を伸ばす。向かう先はわかっていたのに、私は避けられなかった。
「こんなんで安心するわけ?」
「いや、榛名相手だとぜんぜん」
「なんだよそれ、つーか、お前嘘ついたろ」
「なんでよ。榛名は、そんなによく知ってるってわけじゃないし、嘘なんて」
「チゲーっつの。何が"ときめくとかはねー"だよ、お前ドキドキしてんだろ」
そう言いつつも、彼が左手を頭から離さないのには理由があるのだろうか。
馬鹿め。と思う。彼にじゃなく、私に。
「私は別に、誰彼なくときめくわけじゃないから」
「……オマエって、後にひけねーときの思い切りがスゲーよな」
「そこまで思い切ったつもりはないけど」
「まあ、はっきり言わねーとこは、思い切れてねーケド。んじゃあ、どういう相手にならときめくっつーんだよ?」
榛名は、あえてそう聞いてくれた。彼は、良い返事をするつもりが無かったらそんな事を訊けない人で、それこそ鈍感なところがあるから、気付いてなかったら訊くだろうけど、この会話の流れなら間違いなく気付いているし。
だから私は、安心してその質問の答えを言える。
「私がときめくのは、好きな人に撫でられたときだけだよ」
榛名は、私の頭から左手を離すと、今度はその手を私の頬へと移動する。
私はその手に自分の両手を重ねた。
「やっぱ、思い切りよ過ぎンだろ」
「答えは言ってくれないの?」
「……男には色々心の準備が必要なんだっつの」
「そんなん聞いたことないよ。というか、わざわざワンクッション置いて猶予は与えたじゃない」
ムッとした顔をして、榛名が急に近付いて来た。
とてつもなく近い距離で「キスするからな」とだけ言って、その後、私が小さく頷いたのを確認すると、わずかにあった距離を今度は零にする。
目を閉じる暇もなかった。
「お前が今したのは、例えるとこんな感じだったんだよ」
「意味わかんないよ。だいたい、自分でしといて何照れてるの」
「照れてねーよ」
「嘘。顔赤いよ」
「お前のが真っ赤だっつの」
「うるさい」
それから彼は、赤い顔を隠すかのように、そっぽを向きながら、私の頭をもう一度撫でた。
やっぱり、安心もするかもしれない。そう思ったのは彼には内緒である。
2012/10/25
私の友達に居たんです。嫌いな人でも、撫でられると、その間はスイッチ入っちゃってときめくって子が。でも、嫌いな人相手だと、離れた途端スイッチがOFFになって、イラっとするらしいです。