失敗した朝
午前五時過ぎ。いつもなら絶対起きていないような時間に、彼女から電話があった。
「私ねえ。零時を越えてすぐが次の日だとは思わないわけ」
「おー」
寝起きでぼんやりしている頭には、彼女の言っていることが殆ど入ってこない。
そもそも、こんな時間に何を考えて電話なんてしてきたのだろう。頭が回らない為に、彼女の意図もよく理解出来なかった。
「だから、零時回ってすぐに連絡出来なかったのは、寝ちゃったからとか、忘れてたとかそういうんじゃないのよ」
「あん? なんか約束してたっけ?」
「ときに榛名。アンタ今日になってから誰かからメール来たり、何か言われたりした?」
「いや、お前から今電話があったくらいだけど。オレも十一時には寝てたし」
「偉いわ。それでこそ榛名。健康的ね」
電話越しでも、彼女が妙に嬉しそうなのがわかる。一体どうしたというのだろう。
「で、なんだよ? こんな時間に」
「バッカ、まだわかんないの?今日アンタの誕生日じゃないの。おめでとうって一番に言いたかった彼女の気持ちくらい察しなさいよ。あー、まあいいわ。じゃあ私そろそろもっかい寝るから。おやすみー」
「おー、サンキュー、おやすみー」
そんだけかよ。と言いたかったが、言えなかった。もちろん普通に嬉しかったからである。
思い返してみれば、結局おめでとう言ってくれてんのか言ってくれていないのかわからなかった気もするが、指摘したら怒るだろうから言わないでおくことにしよう。
誕生日に最初に口をきいたのがアイツというだけでも、充分嬉しいことだ。
通話が終わってから携帯を見てみれば、オレの誕生日を祝う内容であろうメールがいくつか来ていた。
なるほど、メールではなく電話をしたアイツの判断は間違っていなかったらしい。
その友人達からのメールを開こうとすれば、それを阻むかのように彼女からの新着メールが届いたので、まずそれを開いてみる。すると、"言い忘れたごめん。誕生日おめでとう"という文字が画面に表示された。
どうやらオレが指摘するまでもなく、アイツも自分のミスに気付けたようだ。
「タイミング良過ぎんだろ、アイツ」
そう言い、緩む口元を隠すように布団を被れば、睡魔は瞬く間にオレを眠りの国へと誘う。
誕生日だからといって、特に幸せな夢を見たいとはこれっぽっちも思わなかった。
ただ、早く朝がくることの方が、オレには幸せだったからだ。時間を感じさせる夢なんて、今日に限っては邪魔者でしかないのである。
2012/05/24
他の二つが二つだったんで、一個は榛名と女の子をイチャイチャさせてあげたくてこれです。結果
イチャイチャ成分零で、ツンデレ成分が大半をしめる話になりました。榛名お誕生日おめでとう。