親友と盗られた何か
「甘いよねー。人の誕生日にはなんにもしなかったのに、自分は当日になんかもらおうとするんだあ?」
「誰もンなこと言ってねーっつの。大体、当日にはなんも出来なかったケド、ちゃんと別の日にプレゼントやったろ」
はいはい。まあ、用意してあるんだけどね。ほら。そう言ってプレゼントを差し出したツンデレな彼女さんにひとしきりニヤニヤさせていただいて、私は青春成分の補給に成功した。
私と二人で選びに行ったマグカップは、きっとばっちり彼の好みにあっているだろう。なにせ、アイツと私の好みというのは似通っていて、彼女が彼へのプレゼントにさえしなければ、私があのマグカップを購入していたところだったのだから。
開ける前からめちゃくちゃ喜んでいて、開けても落胆の表情をみせるどころか、更に嬉しそうな顔をする彼は、本当に彼女を喜ばせることに長けている。二人は幸せで幸せでたまらないんだろうなあ。それがただ、嬉しかった。憎らしいなんて、嘘でも思えるはずがない。
「あ、じゃ、私そろそろ教室戻るね! 次移動教室なんだった!」
彼女がそう言ったので、私と彼は同時に、おー、また後でー。と、彼女に手を振る。よくもまあ、何から何まで被るものだと、少し感心した。特に誰にというわけでも、何にというわけでもなかったが。
「はー。来年はちゃんと当日に祝ってやんなよ。あの子のも」
「わぁってるっつの」
「私からとったんだから」
もう一度言うが、私と彼の好みは非常によく似ていて、現実はとても非情だった。
たかが性別の壁のせいで、私が長年恋し続けた幼馴染は彼にあっさりと奪われたのだ。
見えなくなった彼女の背中を思い出しながら、私は今更になって心に浮上してきた苛立ちを嫌味に変えて彼に吐き出す。
「大体、過ぎてからでも気付けたのは私のお陰だったんだしね」
「ほんっと、過ぎたコトをぐちぐちウッセーなオマエは」
「私にはまだ現在進行形なんですー」
あの子の誕生日を忘れたことではなく。あの子を奪ったことについてなわけだが、彼がそんな事に気付くわけもなく。
そもそも、とった、とか。それはあくまでも、親友として、私が彼女と遊べる時間をとられて不服なんだろう。なんて程度にしか、彼は考えていないだろうし。
「オマエの言いたいことは、最近なんとなくわかるようになってきたけどな。好みが被るっつーのは良い事だけじゃねーな」
「おー、そうそう。ちょっと頑張ってんじゃん。はなまるあげるよ」
「で、なんつーか。オレは結構ナルシストなんだけど、そこはどうなるわけ?」
「それを私に言って、どうしたいわけ。っていうか、わかってるっつのそんなこと。私も親友としてならアンタが一番好きだもん。ってことでこれ、プレゼント。外してはいないハズ」
本当なら、それ、私が欲しかったんだけどなー。そう思いながらポケットから私のお気に入りのキーホルダーの入った箱を取り出し、彼に差し出せば、彼はサンキュー、と、嬉しそうにそれに手を伸ばしてきた。あの子だけでなくキーホルダーまで奪うのか、こいつは。そう思うと手を引っ込めたくはなったが、我慢する。
「そんなに気に入ってんなら、自分で使えば?」
「いーの。これはアンタの為に買ったんだから、自分で使ったらその子が可哀想」
「よくわかんねーけど、そんならもらっとく」
「私にはアンタからの誕生日プレゼントがありますからねー」
「あー、元オレのキーホルダーなー。それはお前が勝手に奪っただけだろ。まあ、代わりくれたからいいけど」
包装紙をガサガサと開けて、表情から察するに彼は中身にご満悦な様子だった。
早速、今まで使っていたキーホルダーから鍵を移動させてくれる辺り、まあ、コイツほどプレゼントのあげがいのある奴もいねえなあ。なんて思ったり。
「まあ、なんだ」
「ああ?」
「誕生日おめでと」
あの子のことも、キーホルダーみたいに大事に大事にしてくれそうだし、そんならちょっと素敵過ぎるプレゼントだったと思って諦めるかな。なんて。
当然、遠慮するのは誕生日だけだけど。
2012/05/24
去年だったかの、結婚した年上のお姉さんネタの別視点です。彼女視点書けばよかった。そういうとこが、私のダメなところなんだろうなあ。