出来合いの溺愛/臨也


「これ、今月分の六万円です」

「同級生に敬語なんて使う事ないのに」

よく事務所にくるあの人は、臨也さんに借金をしているらしい。しかも400万も。私からしたら凄い金額である。

私は春から事情があってこの事務所で働いていて、臨也さんに不本意ながらもお世話になっているわけだが、ベツに借金をしてるわけではないし、あの人より自由な立場にある。

それでもって、私は臨也さんの彼女だった。

不本意というのは、好きな人の負担になることである。

「あのねえ、借金してる上に、私は第四日曜だけはあんたの下僕。もとい、雑用係なんだからタメ口なんて使えるわけないでしょ?」

「とか言いながら、いきなりそれタメ口だよね」

「いいって言ったのはそっちでしょうが。まあ……とりあえず、今日も一日、一ヶ月の利子分の働きはしてやるから。私は何をすればいいわけ?」

「じゃあ今日は俺とデートしよう」

「彼女さん見てるけど」

「君はさあ、もっと動揺するとかないわけ? さらっと流しちゃって。本当、可愛げないよねえ」

「彼女の嫉妬が可愛いのはわかるけど、好い加減にしないと刺し殺されるよ」

「君がね」

こういう、わかりあってる感じの会話がムカつく。それに嫉妬するわ。

彼女には、彼女の恋人がいるのだが、だから嫉妬する必要なんてないのだが、それでも臨也さんは彼女を大切にしてる感じがして腹が立つ。

「で? デートするの? 場所は池袋でいい?」

「君の、今度こそ死ねっていう本音が見え隠れしてるけど、まあいいや、殺される気ないし」

「そうやってたかをくくってると死ぬんだけどね。お線香だけはあげてあげる」

「君の減らず口は結構好きだよ」

「あー、ありがとう」

いい加減我慢の限界なので、私は乱暴に席を立ち、キッチンへと向かった。

全く、第四日曜日はいつもこうだ。臨也さんがこうなる私で楽しんでるのはわかるし、彼からの愛はあまり感じたことはないが、きちんと愛されてるのも理解しているつもりだ。

それでも腹が立つものは腹が立つのだ。そして私はツンデレなわけで、それでいてヤンデレなわけで。

「もしもし、静雄くんですか」

『おう、平尾か。どうした?』

「あなたの彼女さんを臨也さんがデートに誘ってます」

『今直ぐ行く。どこだ』

臨也さんを死なせる気で、とりあえず邪魔しようと思う。

睡眠薬を入れたコーヒーでも飲ませておけば、今度こそ静雄くんがとどめを刺してくれるだろう。

まあ、いつも飲んでくれないのだけど。

「千紗子ちゃん。もしかして今、またシズちゃん呼んだ?」

不意に、あの人との会話が終わったのか、臨也さんが台所に姿を現した。

私は、ため息をつきながらも、素直に答える。

「ええ、まあ。あ、臨也さんコーヒー飲みます?」

「飲むかはわからないけどいれておいてくれる? っていうか、千紗子ちゃんさあ、シズちゃんに頼るのやめない? 俺も嫉妬くらいするよ?」

わざとそんなことを言う彼をなんで私は好きになったのだろう。それ以上に、何故彼が私を好きなのかの方がわからないといえばわからないのだが、私の性格は悪くない筈だし、人間なら、いや、でも臨也さんモテるよな? うーん。わからないし、まあ良いか。

暫くすると、玄関から破壊音が聴こえてきて、静雄くんがリビングに姿を現した。

また借金増えたねえ。と臨也さんが言ってるところをみると、どうやら私は自分で自分の首を締めてしまったらしい。

臨也さんがそこまで見越してあんなことをしたのだとしたら、大嫌いな静雄くんに会ってでも私に嫌がらせをしたかったわけなんだから、やっぱり私は多分愛されてるんだろう。

きっと彼は、私がそう判断することにだって気付いているのだろうが、ベツにいいか。

人生なんてこんなものである。



2012/02/28
んー。この話は本当は臨也さんよりヒロインのが掴みどころない気がする。
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