積み重ね、積み重ねて/加具山
「寒い。死ね」
「誰に言ってんだよ?」
「冬に言ってんの」
一月三日。鼻水が凍る、とまでは言わないけど、かなり寒い冬の日。
私達は、大学の合格祈願をするため、近所の神社に初詣に来ていた。
「てか、あれ?凉音と大河は?」
「ああ、なんか二人で行くって」
「ふ、相変わらずだな。腹立たしいけど、まあ仕方ない。じゃあ町田は?」
「なんか急用だって」
「ほうほう。フクちゃんは?」
「フクちゃんはそもそも来ないって話だったケド」
「え? じゃあ、なに? 中山とかも遅くない?」
「つーか、お前とオレ以外全滅だって。風邪流行ってんだよ」
「年明け早々なんなんだよ……くっそー。私だって風邪なのにー」
私がそう文句を言うと、加具山は、それなら連絡してくれりゃあ今日無しにしたのに。みたいなことを言ったが、私はマフラーに口元を埋めながら、首をブンブンと横に振る。
寒いし、風邪だし、ちょっとしんどいけど、でも今日はどうしてもきたかったのだ。
「加具山、そんなら、とりあえず行こう」
「おう」
「寒い。そうだ。ちょっと手を貸して」
「? いいけど」
ベタに手を繋いでやれば、加具山はほんの少し驚いた顔をして私の方を見た。
つい、顔をそらす私。二人っきりというのは美味しい状況だけれど、でも、やはり照れるし、ついつい暴走しそうになるから困る。
「つーか加具山くん。あなた手袋は?」
「遅れそうになって、慌ててたら忘れた」
「馬鹿だね。投手が手をそんな風に扱っちゃダメじゃないの」
手袋越しでもわかるくらい、加具山の手は冷えていた。
手が冷たい人は心があったかいとか言うけど、加具山に至っては、手があったかかろうが、心があったかいのは間違いないことだろう。
繋いだ手がとても優しい。痛くない程度に握り返された手が、嬉しくてたまらない。
「まあ、それはともかく、加具山くん、あのさ」
「ん? なんだよ?」
「誕生日、だよね、今日。だからほら、おめでとう」
「あれ? あ、そういや今日三日か。サンキュー」
「家族とかに言われなかったの?」
「誰からもメールすら来てねーかな。三が日だから皆忙しいんじゃねーの?」
「かもねー」
ということは、私が一番におめでとうを言ったわけか。ただそれだけのことで優越感を覚える。
この手は、多分神社についたら離れてしまうだろうし、大学に行ったら会える時間も減るだろうけれど、気持ちだけは彼の近くに居たいなあ。と、ほんのり思った。
どうしても、とか、絶対に。なんて言葉をつけられないくらい、小さな気持ちだけれど、それでもこの瞬間に確かに存在する気持ちは、ホンモノだろうから。大切にしたい。とか。
「そうだ。帰りに、誕生日プレゼントになんか奢ってあげるよ」
「マジで? なんか悪いな。つーか、じゃあ次のお前の誕生日には、オレもなんかするな」
「ありがとう」
小さな約束を積み重ねて、私達はいつまで一緒に居れるのだろう。
願わくば、いつまでも。
2011/01/03
かぐやんお誕生日おめでとう。町田が再登場したように、加具山くんが再登場することを私は祈ってます。