大晦日


「なんでオレがお前んちの掃除手伝わなきゃなんねーわけ?」

「るっさい。そんくらいしてくれてもいいでしょ」

大晦日。晦日というのは毎月の三十日のことで、十二月三十一日は一年の最後だから大晦日と言う。とかなんとかなんて、中途半端な知識をこいつが披露していたのは、一体何年前のことだったろう。

そんな青春を経て、オレ達は成人し、社会人になった。

成人式の次の年、のんびりと大学に通っていた秋丸を強引に言いくるめて、こいつが勝手に籍をいれた時のことは、今でも容易に思い出せる。

「恭平は今年は今日まで仕事だし」

「そんで頼めるのオレしかいねーって、お前んとこの親戚付き合いとか人付き合いとかどうなってんだよ」

「あんた以外、今日は皆忙しいのよ」

「オレだって忙しいっつの」

「掃除の邪魔だって追い出された癖に」

そんな憎まれ口を叩き合いながら、付き合わされた大掃除を終えて、掃除したばかりの綺麗なカーペットに座り、コタツに入って二人で息を吐く。

コタツの上にはお茶と蜜柑があって、それにオレが手を伸ばして。折角剥いた蜜柑をこいつが横取りして。
これは、昔オレが思い描いていた未来予想図で、少し関係は変われど、その夢はこうやっていとも簡単に叶えられた。

「今年も幸せだったわ、私」

「オレも」

「美人な嫁さんゲットしたしね。なんか尻に敷かれてるみたいだけど」

「うっせ」

相変わらず口の減らない彼女から、オレは蜜柑を奪い返した。

蜜柑の味というのは何年経っても変わらない。あの頃と同じ甘酸っぱさが口の中に広がる。

「でもまあ、来年はお互いもっと幸せになるよねー」

「まーな」

にまにま笑いながら、楽観的なことを言う彼女にそう返事をし、お茶に口をつけた。

しかし、彼女が次にした発言でそれを吹き出しそうになる。

「私んとこなんて家族一人増えるし。恭平にはまだ内緒だけど」

「……! ッ、はあ!?」

「あの恭平がお父さん。変な感じだよね」

「いや、早く言ってやれよ。バカかお前は」

「そうなんだけど。なんて言っていいのかわからなくて」

「それでなんでオレに言うんだよ」

「だってー」

まあ、そりゃあ夫婦なんだからやる事くらい済ませているのはわかるし、オレももう子どもではないから、そんな事には動揺しないが、本人に言ってないというのは大問題である。

「年明けたら言おうと思って」

「先にオレに言ってんのって、アイツでも嫉妬くらいすんじゃねーの?」

「なら嬉しいんだけどね」

となるとこいつは十中八九喜ぶことになるだろう。彼女の言い方に合わせれば、嬉しがることになる。

秋丸のこいつに対する執着心は、本人には気付かれていないようだが、かなり物凄いのだ。

そもそも、オレが大掃除を手伝ったことにだっていい顔をしないに違いない。

まあ、どんな奴だって、自分の嫁が昔の男を頼ったりしたら嫌だろう。秋丸もその辺りは普通の男だというだけである。

「ま、そういうことだからお祝い頼むよ。服とかはすぐサイズ変わるだろうから、なんか長く使える高いものでお願い」

「図々しいよな、お前」

「あんたの時も奮発してあげるからさ」

彼女がそんなことを言った時、オレの携帯が鳴った。画面に表示されている名前に、ようやく、うちへ帰れるのか。と安堵して通話ボタンを押す。

オレはそう、すっかり忘れていたのだ。嫉妬深いのが、自分の幼馴染以外にもいたことを



「あっははは、声私にまで聞こえてたよ? 私んとこいるなんて言わなきゃいいのにー」

「うっせアホ」

「で、帰ってくんなって言われても帰るんでしょ?」

「おー」

「んじゃ、今日はありがとうね。お礼は後日するわ」

そう言って笑った彼女の顔は、どこか昔と違ってスッキリして見えた。

オレの心境が変わったからか、それとも彼女が大人になったからか、それはわからないが、悪いことではないだろう。

とりあえず今は、自分のうちで不貞腐れているであろう彼女の機嫌を、どうやってとるかを考えなければ。

来年を幸せに過ごすために。



2011/12/31
そんなわけで、今年も一年ありがとうございました。
後半は、プライベートが忙しく、ほとんど更新出来ませんでしたが、来年は頑張ります。
本誌でも榛名が活躍するだろうと思われますので、特に気合いをいれなければ。

では、皆様良いお年を!
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