テロリストの正義/坂田
「やあ、白夜叉さん。今日お誕生日だそうじゃないですか」
坂田銀時。トレードマークは、銀色のその天然パーマである。
遠い昔、初めて会った時から変わらないその銀髪が、月明かりを反射して綺麗だった。
「お前なァ、何度言ったらわかってくれんの? 俺はお前の言う白夜叉さんではありません」
「またまたー、初恋の相手間違えるなんて、恋する乙女がそんな事するわけないじゃないですか」
「いやいや、んなことねーって、勘違いとかあるからね。そっくりさんと勘違いとか、双子のお兄さんと間違えるとか、そういうお話もあるから。勘違いはありうるから」
「勘違いから始まる恋もある」
「ドヤ顔すんな」
そう言って、坂田さんは自分の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。綿菓子を作っているみたいでおかしかった。
でも、坂田さんは全く甘くない。特に私には。
「つーか、勘違いからっつーことは勘違いなんだろうよォ。てなわけでこの話は終了! お前はお家に帰ってお寝んねしなさい」
「いや、まあ、勘違いじゃありませんけどね」
「お前も強情な奴だな。このやり取り何回目だよ」
「二ヶ月前に再会して、んー、十八回目くらいですかね?」
「誕生日まで不快な思いさせるつもりですかー?」
「それはすみません。でも、なんで坂田さん嘘つくんですか? 私に初恋の人だと思われて付きまとわれるのが嫌? それとも、白夜叉っていう事実自体を隠したいんですか?」
「どっちでもねーよ、俺は白夜叉じゃねーからな。大体、英雄が天然パーマって全く決まんねーだろうが」
「いや、白夜叉天然パーマでしたよ。私見ましたもの」
「……つーことで、大人しく帰んなさい。女の子がこんな時間に出歩いてちゃダメでしょー」
坂田さんはそう言いながら、すれ違い様に私の肩をポンっと叩いた。
私はわかってるのだ。私の憧れが、彼の重荷になるのが。自分みたいなのに、特にあの頃の自分に憧れられるのが、彼にとって苦痛でしかないことを知っている。
それでも、私は、彼の強さが好きで、それだけを目標に生きてきた。私が憧れたのは心の強さなんかじゃなく、彼の腕っ節の強さだけで、だから、
彼の心の強さも知りたいから、こうやって近付こうとするのに、こうやってかわされてしまうのが、辛い。
「坂田さん、わかってるでしょ」
「ああ? 何がだよ?」
呼び止めたわけではない。が、私の台詞は、それに準じた意味合いになったようで、坂田さんが足を止めた。
「この時代に、私が馬鹿げた戦争を起こそうと、色々根回ししてるの」
「……」
「二ヶ月前の依頼で、あなたの助太刀により真選組に逮捕された浪士も、私が根回ししていたうちの一人です」
「それを俺に言ってどうするつもりだ」
坂田さんが振り向く。その表情は暗くてよく見えないが、きっと険しい。
「うまく出来るかはわかりませんけど、でも、あなたがその気なら、私はやっぱりこの方法で強さを追求します」
「お前」
「お誕生日おめでとうございます。来年も平和に祝えるといいですね」
なんで、私はこんなことを宣言しているのだろう。
言ったら、まるで止めてもらいたいみたいじゃないか。
それなのに坂田さんは私を止めることなく、怒ることなく、諭すこともなく、また歩き出した。
ほら、やっぱりこの人は苦い。私には苦い。
「なんで止めないんですか!」
「悪いことやりたくて悪いことするやつは止めらんねーよ」
「はい?」
「お前がしようとしてるのは、別にお前の正義を貫く為に必要なことじゃねェんだろ?」
足を止めず、坂田さんが続ける。
「お前の正義が間違ってたら、俺は止めてやる。でもそうじゃねェならお前は自分で気付けんだろォが。お前は頭だけは良くって、智将とか痴情とかなんとか呼ばれてたんだからよ」
「痴情とは呼ばれてません。なんだ、覚えてるじゃないですか。やっぱり白夜叉じゃないですか」
漸く、坂田さんが足を止めた。
「俺はお前に白夜叉なんて呼ばれるような人間じゃねーよ」
それでも、振り向きはしない。彼は今、どんな顔をしているんだろう。
「俺達は白夜叉でも、智将でもねェ、ただの仲間だったろ」
変わらない。私なんて、ほとんど彼とは関わらなかったのに、それでも彼は私を覚えていて、仲間だと言ってくれる。
昔から、彼は本当に変わらない。それがきっと彼の強さだ。
きっと言ったら怒るだろうけれど、私の正義は昔から彼だった。彼には、相変わらず敵わない。
「坂田さん、じゃあ」
私の名前覚えてますか? と、私は笑った。どうりで二ヶ月間名前を訊ねてこないはずだ。彼は覚えていたのだろう。
「あー、なんだっけ?」
2011/10/10
誕生日関係ない!すみません。なんかおかしいな?あれ?
僅か50分クオリティです。久々に書いたのでわけわかんな……坂田こんなんですっけ?まあいいや。今年もおめでとうございます坂田さん。私は相変わらずあなたがなぜ人気なのかがわかりません。