馬鹿な貴方の使い様/燐
「燐、」
奥村燐は、私の友達だ。なのに、なのに。
「私、ごめん、なにも」
知らなかった? 出来なかった?
当てはまるのか、その言葉が。いいえ、当てはまりません、その言葉は。
私は、なにも言わなかった。それだけ。
私の前には、女の死体。
「なんで、だよ」
嬉しかったの。仲間だと思った。燐は同じだと思ってた。私と。
私も彼も悪魔の子供。私の父も悪魔だった。でも死んだ。母も死んだ。
母は本当は生きていたのに、生きていけた筈なのに。迫害されて自殺した。彼女は悪魔を愛したから。
「わかってくれると、思ったんだけどな」
違うものね。仕方ないか。表面しか見えてなかった私のせいだ。
間違えていた。誰かに愛されながらぬくぬく生きて来た彼に、私の気持ちがわかるわけなかった。
だから、壊すことにした。なんて当然嘘だけど。
「私、燐は好きだよ」
「なら、なんでだよ」
「ううん、本当は勝呂くんも、しえみも、先生も、なんだかんだで皆好き」
「じゃあ、なんでこんなことしたんだよ!」
怒鳴ってはいるけど、燐は怒ってるわけじゃなく悲しんでいるんだ。
あなたに私のことはわからなかったかもしれないけれど、でも、私には、なんとなくあなたのことがわかってたよ。
「燐、私のこと嫌いになって。そしたら私、未練なんてないから」
先生が来てしまえば、この茶番は終わってしまう。だから私結論を急ぐのに。
燐は、私を嫌いになってくれない。
「なれるわけねーだろ!」
「なんで」
「信じてるからだよ! お前は、こんなこと、なんの理由もなくするヤツじゃねぇって、だから、オレはお前を嫌いになんかならね」
「ったく! ああもう馬鹿!」
「え?」
私は、咄嗟に銃口を彼に、否、もう面倒だから誤魔化すのはやめよう。私は、銃口を彼の後ろに向けた。
「はっ!?」
「これを機に嫌われとこうと思ったのに!」
燐は私の銃の腕を知っているからか、私が引き鉄を引く直前、というか、私が銃を構えた時点で回避動作に移った。
「避けることないのにー」
「お前がオレを狙ってんなら避けなかったけど、違うなら話は別だっつーの!」
「信用ないなあ、私。あれ?燐は私を信用してくれてる筈じゃ……」
「……お前の銃の腕だけは別だ」
「酷いなー」
今回の落ちを言ってしまえば、目の前で死んでいる女は、悪魔落ちしやがった元同胞である。
よくよく考えてみれば、彼女も悪魔との血縁者であるゆえ、悪魔落ちというのも、どこかおかしいかもしれないが。
言っとくけど、私が留めを差したわけじゃない。半殺しにはしたけど、彼女は自害した。
しかし、場合によっては手を下す羽目になっていた可能性もあり、本来なら、こういう暗い部分の仕事は、まだ候補生である彼らに知られてはいけなかったのだが、ちょっとミスをして、燐に見られてしまったのである。
そして、死なせることになってしまった彼女の方が、燐より私に近かったから、私も近い将来こうなるなかな、とか思って、悲観してみたけれど、燐が馬鹿過ぎるから、私はきっとここまま、ぬくぬくとこちら側をエンジョイできることだろう。
「ほら、でも弾あたったんじゃん? あんたの後ろにいた悪魔に。倒れてるもの」
「馬鹿なこと言わないで下さい。貴女の弾が当たるわけないでしょう」
そう言って悪魔の後方から現れたのは奥村くんで、なるほど、悪魔は彼に倒されたらしい。
「先生までひっどい。というかなに、もしかして先生、この女について燐に説明しちゃってた?」
「いえ、何も。気がついたときには兄は消えてましたから」
「ふうん」
それでも勘違いしないとは。流石というか。
少しときめいた。本当に、ほんの少しだけれど。
「はー、まあ、燐。ありがとね」
「は? なにがだよ」
「あんたが馬鹿で良かったってこと」
「はあ!? 褒めてねーだろそれ!」
この馬鹿さ加減じゃ、この先、生きて行くのは大変かもしれない。
こんなでも燐は悩むし、その上彼は悩みに弱い。意外とネガティヴで、誰かに認めてもらえなきゃ立ち上がれないところもあって。
ああ、でも、それなら。
「燐、あのさ。私のこと嫌いにならないでね」
「なんでいきなり言うこと変わるんだよ。つーか、嫌いになんねえっつってんだろ」
「うん、じゃあ私もあんたのこと、嫌いにならないでいてあげる」
それなら、私が彼を認めて、支え合えばいいだけのことだ。
私も一人じゃ辛いけど、きっと燐がいれば平気だろうし。
「つーな、お前って、ほんっとーにいつも偉そうだよな」
「まー、私『騎士』としてなら余裕でやってけるからねー。本当なら塾なんて今更通いたくなかったんだけど、ただ、知識がないから塾通わされてるだけで、だからついでに『竜騎士』の称号も手に入れとくかな、って銃を」
「わかった! つまりお前はオレと同じで馬鹿なんだな!」
「……そうやって、人と同時に自分も貶し続けろあほタレ」
2011/09/17
ヒロインは多分燐より少し年上です。しえみと同じで学校には行ってない感じで、悪魔のとのハーフかと。おかしい。最初はシリアスだけで行く筈だったのに。
なんだかんだのとこに、志摩くん以外をいれたくなった私は、わりと志摩くんが好きらしいです。