こういうこと、ということ/秋丸
秋丸くんに好きになってもらうのって、凄く難しいと思う。
私は昔から攻略の難しいゲームが好きで、まあ、でも攻略出来たことないんだけど。
秋丸くんを好きになったのはつまりそういうことで、それだけのことなんだって思った。
告白してみたらOKはくれたけれど、相変わらず、榛名くん以外に対してってどうでもよさそうだな。とか。
部活の先輩の話すら、『榛名』と、なんとか先輩が〜といった、第三者目線の内容でしかないのだ。
秋丸だけのエピソードなんかなかった。榛名くんには、家で何があったとか話してるのにね。
私、秋丸くんのことなんて、何も話してもらってないよ。
なのになんで好きなんだろう。
「秋丸くん。私といて楽しい?」
そう言って、本気で疑いの眼差しを向ければ、秋丸くんは、そう思わせてしまったことを悪びれる様子もなく、楽しいよ?と言葉を返した。
「じゃあさ、部活楽しい?」
「楽しいけど。榛名になんか言われたの?」
「べつに言われてないけど。なんでそこで榛名がでてくるの」
榛名くんに嫉妬しているわけじゃない。むしろ、榛名くんは大変なんだろうなって思う。
皆は、あの榛名の世話するなんて、秋丸大変だよなー。みたいに言ってるけど、実際には秋丸くんは大して榛名くんの世話してないし。絶対榛名くんの方が、こういう秋丸くんに困っていると思うのだ。
「なんか、この間榛名が、彼氏がお前じゃアイツも大変だよなーって、平尾さんのこと話してたから」
流石は榛名くん。そう思ったが口には出さなかった。
実は、榛名くんに何も言われてないというのは嘘だったりするのだが、多分秋丸くんが予想している"言われたこと"の内容とは一致しないので、私に罪悪感はない。
そもそも、「秋丸のどこが好きなわけ?」と訊かれたなんて秋丸くんに話したら、榛名くんが私に気があるみたいに勘違いされてしまうじゃないか。
因みに、というか、これが本題なのだが、私はつまり、その質問に上手く答えられなかった。
私の事どうでもよさそうにされると一々ムカつく。それは要するに、彼が好きだという事なのだとは思うのだが。なぜそう思うようになったのかはわからない。
ただ単に、一年のときに同じクラスで、一度席が隣になっただけなのに。
大きなエピソードなんて一つもないのだ。それは多分、彼と部活の先輩の関係と同じ。
私と彼の間には、どうでもよさそうにされるのが、当たり前なくらい、全くと言っていい程、エピソードなんてないのだ。
「大変なの?」
「え? なにが?」
「オレといるの。大変なのかなって」
「大変っていうのとは、多分違うけど。わかりやすく言えば、大変、かも」
こういうこと言ったら、普通の彼氏なら、心外そうな顔するんだよ。もしくは極論で、別れ話になるとか。
でも秋丸くんは、普通の顔しかしない。心外そうに。だとしても、榛名には言われたくないな。なんて言うけど、私にどう思われてても関係なさそうな顔しかしてくれない。
「ねえ、だからさ、大変って言ってるんだよ? なんかないの?」
「大変なの、嫌なの?」
「普通は、大変なの嫌でしょ。秋丸くんは大変なの好きなの?」
「いや、好きじゃないけど。でもオレも平尾さんといるのは大変だし」
「な!」
「でも、大変でもそばに居たいって思うのが、好きってことなんじゃないの?」
あ、それ。真理かもしれない。
不覚にもそう思わされてしまった。
私は確かに、秋丸くんといると傷つくばっかで、イライラするし、嫌なことも多いけど、別れたいとは思わないのだ。
好きな理由もわからないのに、そばに居たいって思う。
そういえば便利な言葉があるのを思い出した。ほら、人を好きになるのに理由はいらないっやつ。
でも、理由もないのに、好きだって思えるポイントって、そういうところなのかもしれない。
秋丸くんにどうでもよさそうにされたままでいいわけではないけど。
どうでもよさそうにされないようになりたいって思うのは彼を好きだからで、それを変えるのはきっと大変だけど、大変でもそばにいたいのも、やはり好きだからだった。
「秋丸くんのバカ」
「なんで」
「私のこと好きなら早く言ってくれたら良かったのに」
「……なんでそうなるの?」
呆れたように秋丸くんが言う。気づかなかったけど、思ってみれば、秋丸くんは、ただのクラスメイトにはこんな顔はしないのだ。
私達の仲は、ちょっとずつはいい方に変わっているのかもしれない。
「べつに、好きって思ってくれるのが嬉しいだけだよ」
どんなに大変でも、明日も明後日も、私は結局彼のとなりを選んでしまうのだろう。
それは、ベツに嫌じゃない。
「私も、よくわかんないけど、秋丸くん好きだからさ」
2011/09/10
最近秋丸が好きです。