一秒後と未来/クレア


クレア・スタンフィールドには関わらない方がいいよ。

確かに、私は友人にそう言われた。関わらない方がいいと言われたって、私はそれが誰なのかも、何をしている人なのかも知らないし、何故関わってはいけないのかもわからない。

だから、この事態に、私の責任は無いし、だからつまり。

「千紗子は今日も相変わらず綺麗だな、変な男に迫られたりしたらまず俺に言え。すぐになんとかしてやろう」

とりあえず、私に迫ってくる変な男はお前だと言いたい。

クレア・スタンフィールドは殺し屋らしい。それも、化け物じみた殺し屋なのだと言う。

そんな殺し屋と私が関わることになるなんて、友人は夢にも思っていなかったらしく、あのときのあの台詞というのは、つまるところ、冗談だったらしいのだ。

私はただのしがない花屋で、お店がガンドールファミリーのシマにあるから、ちょっとラックさんとお話をしたことがあるくらいの一般人だ。

私のその友人は、どこかの酒場か何かでウェイトレスとして働いているらしいので、私より彼らと深く関わっているようだが、私自身は、ガンドールファミリーとすら、本当にその程度の繋がりしかない。

だから、殺し屋と関わるなんて、私だって夢にも思わなかった事なのである。

夢に見ていたとしても、悪夢だっただろうけれど。

「クレアさん。お願いだからお店に居座るのやめてもらえます? 仕事中しにくいんです」

「愛する俺に見られていては、照れてしまって仕事にならないか。よし、それなら仕方がない。仕事が終わる頃にまたくるとしよう」

盛大な勘違いをして、クレアさんが店を出て行った。

仕事が終わる頃って、私がいつも何時まで仕事をしているか知っているのだろうか。いや、彼のことだから知っているのだろうけど。

ちなみに、私が彼と知り合ったのは昨日のことだ。彼が昨日、何故か花を買いにきて、それはなにやらお使いだったらしいのだが、彼が買うと言った花を包んで、お会計をしたところで、その花を返されてプロポーズされた。意味不明だった。

そしてその夜、強引にディナーに連れていかれ、御馳走になってしまった。そのせいで、なんとなく邪険にも扱えないのだ。私は餌付けに弱いのである。

そこで名前を聞いて、以前友人に言われたことを思い出し、すぐに友人に連絡をした。そして、その時にあれが冗談のつもりだったという話を聞かされたということの次第なのである。ちなみに、友人も彼にプロポーズされたらしい。

「きちんと断れば諦めてくれるらしいけど、」

餌付け程度でほだされてしまう私なのだ。

きちんと断る前に落とされてしまう気がする。




「式はいつにする?」

私の仕事が終わる頃、クレアさんが言っていた通りにまた店に来た。

そして、店の閉め作業をする私の背中に、不可解な言葉を投げかけてくる。

「なんの話ですか」

「おっと、俺としたことが、プロポーズがまだだったな。結婚しよう。千紗子」

「いや、プロポーズって、まだ付き合ってもいないじゃないですか」

「千紗子が、相手はいないけど、とにかく結婚したい。と言っていたと聞いたんだが」

それは確かに言った。周りがどんどんそんなふうに幸せになって行くからって、やけになって、友人にそんなことを言った覚えがある。

しかし、だからと言って、お付き合いもしていない男性との結婚なんて考えるわけがない。

「まあ、千紗子も俺と付き合ってくれる気はあるようだからな。気長に待つことにしよう」

「ちょっと待って下さい。誰が付き合う気あるなんて……」

「"まだ"付き合っていない。と言ったのは千紗子だろう? つまり、付き合う予定はあるということだ」

悔しいが正論だ。まだ、というのは、これからそうなることを示唆する言葉なのだ。閉店作業をしながら片手間で答えていたせいか、ついつい、彼に対して弱気なところが思い切り台詞にでてしまっていたらしい。

「それは、まあ、そうですけどね」

「よし、じゃあとりあえずはその予定に沿って行動しよう。これから恋人である俺とデートに行くぞ。恋人になったからには、お互いのことをもっと知るべきだ」

「わー、もう恋人になっちゃいましたか。あなたの気長って、短いったらないですねー」

「さて、じゃあ俺はどうすればいい? あと何をしたら千紗子の仕事は終わるんだ?」

恋人になったというのを否定する気が起きない時点で、私の負けだ。というか、否定しても言いくるめられてしまう気がするし、もう面倒だった。

だが、仕事にだけは余計な手を出されたくはないので、それだけはきちんとお断りすることにした。

「クレアさんがジッとしてくれていた方が、仕事、終わらせやすいので、ちょっと黙ってジッとしててもらえませんか」

「わかった。なら俺は黙ってジッとしていることにしよう」

「それと、今日は疲れたのでデートは明日にしませんか。私明日オフなんで」

「なら、仕事を早く終わらせることは無いな。今日はここで仕事が終わるまでゆっくりいちゃつこう」

後ろから勝手に私の身体を抱き締めてくるクレアさんは、言ってしまえばとても邪魔だが、まあ、確かに仕事が終わった後どこかに行く用事も無いので、彼の言う通りゆっくりでも良いかもしれない。

この状態でも作業が出来ないことは無いので、私は仕方なくこの状態で仕事を続けることにした。

それにしても、うん。


それじゃあ、式はいつにしようか。



2011/08/30
私がさっさと結婚したいだけです。
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