月と闇/高杉


その部屋では、月明かりの下、女が男に馬乗りになり、首に刀を突きつけていた。

女は、刀の切っ先ではなく、刃を首にあてがい、顔を近付けて、愛を囁く様に言葉を吐く。

「誕生日に死にかけってどんな気分かしら? まあ、死にかけどころか殺すけれど」

「ククッ、そりゃ殺してから言うんだなァ」

男は、そんな女に怯む事も、脅える事もなく、ただ、寝転んだ床の冷たさを背中に感じる。

今日は熱帯夜だ。床の温度は気持ちの良いものだった。

「冷静過ぎてつまらないわね。いくらあなたでも、この状態から抜け出す事なんて出来るの?」

「ハッ、オメェにゃ、俺は斬れねー。なんでだかわかるかァ?」

「そうね、わからないことは無いわ」

女にはそう言って、諦めたように刀をどけた。そして振り返り、背中に突き付けられた二丁拳銃の銃口を睨みつけてから、刀を捨てて手を上げると、残念そうにため息を吐く。

「私は、自分の命と引きかえにしてまであんたを殺そうとは思って無いわ」

「それで、刀をどけて殺されるとは思わなかったのかァ?」

「そうねえ……、そうだ、あなた、その弾、私が万が一よけでもしたら、高杉に当たるわよ」

そう言われ、女に銃口を向けていた人間の心に隙が生じた。

その瞬間、女はその人間の持つ片方の銃を蹴り上げる。

咄嗟に、もう片方の銃の引き金を絞ろうとするが、やはり高杉の場所を確認してしまう。そこにはすでに高杉は居なかったが、集中を乱した為か、弾は高杉どころか女さえ捉えることはなかった。

「随分慕われているのね」

どこか嬉しそうに女が呟く。

そして、明かりの差す場所に漸く拳銃を持った女が姿を現した。その女をの表情は悔しそうな色に染まっている。

「そんな顔することないわ。あなたは高杉を守りきったし、私を殺す気で来てくれたもの」

「早く失せろ。テメー程度の女をまた子がもう一度仕留めそこねるなんて思わねーことだな」

「そのお前程度に追い詰められた男がよく言うわ。とりあえず誕生日祝いに来てやったことくらい感謝しなさいよ。おめでとう高杉。来年は殺すわ」

そう言って、女が月に向って消えた後、また子と呼ばれた女は、蹴飛ばされた拳銃を広い、高杉に疑問を呈した。

「晋助様、あの女はなんだったんスか?」

「ただの気狂いだ、気にするめェ」

旧知の人間を想うかの様な顔をしてそういうと、高杉は、月に背を向け、月明かりの届かない闇の奥へと消えていく。

残されたまた子は、納得のいかないような顔をしつつも、高杉にその先を問うような真似はせず、その代わり、ただ月を睨み付けた。

そして、来年また来ると言うのなら、あの女は来年きっと殺してやろうと、彼女はそう、月に誓うのだった。



2011/08/10
問題は今日の月の大きさなのですが。まあ、新月じゃなかったから大丈夫なハズです。
というかなにこれ、誰夢?
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