行き急ぐ私/臨也


私の友人の、折原という人間は、人間という種そのものを愛しているという、途方もない変人だ。

彼の愛は、猫好きや犬好きのいう、『私、猫って可愛いから大好きなんだよねえ』なんて台詞から感じる愛情とはまた少し違う。そもそも、猫や犬を大好きという人間はいるかもしれないが、猫や犬を愛している。なんて表現する人間がいるだろうか。

自身のペットを特別に愛するのならわかる。『私はうちの飼い猫の○○を実の娘のように(溺)愛している』等ならまだ納得出来るが、彼は人間という種を自らのペットとまでは思っていないだろう。まあ、例え人類をペットだと彼が考えていようとやはり彼は異常なのだが。

「折原くんさ」

私は高校時代から、そんな彼が大好きだった。異常であるがため、常に近寄り難い雰囲気を纏っていた、折原臨也が好きだった。

恋愛感情以上にどろどろで醜く、罪深い感情を抱いていた。その感情は、恋愛にはおこがましく、依存というには勝手な、信頼というには浅ましい。そんな感情であり、私ではそれにつける名前が見付けられない。それでもあえて私が名付けるならば病的な感情とでも言っておこう。それも名前というには中途半端だが。

「ねえ、折原くんさ」

彼は、二度目の呼び掛けで漸く顔を上げた。先ほどまで携帯に落としていた鋭い目線で私を射抜く。そしてその目を細め、微笑んだ。相も変わらぬ整った顔。綺麗な薔薇には棘があるとでも言うようだ。

「なに?」

折原くんのその台詞に、用件を思い出した。今日わざわざ折原くんの事務所まで私が訪ねてきたのは、別にのんびりまったり過ごす為ではない。

ましてや彼の綺麗なお顔を鑑賞するためなんかではなかったのだが、どうにも私は折原くんを見ると見惚れてしまうようだ。

高校時代からこのようなことは沢山あった。逆に、彼以外の人間と会話をするなんて、吐き気がするほど嫌な行為だし、無駄な時間であるわけなのだが、そんな事は今はどうでも良いだろう。せっかく折原くんと居るのだ。折原くんの事だけを考えていたい。

「用件なんだけどね、折原くんさ、そろそろ……」

「先に言うけど、君の物にはならないからね」

このやりとりも、もう何回目になるだろう。正直、私は折原くんが私のものになってくれるなんて思っていない。というか、私のものになってくれる折原くんなんて折原くんじゃない。つまり、これは確認作業なのだ。折原くんが折原くんでいるかどうか。私はいつもそれを確認するためだけに彼の事務所を訪ね、同じ質問をする。

「それは残念」

「そんな風に思ってるようには見えないけどね」

「気のせいですよ」

「君こそ、いい加減俺のものになっちゃえば?」

「なりませんよ」

「それは残念だ」

「そんな風に思ってなんかいない癖に」

「気のせいだよ」

多分、彼のこの質問も、私が私でいるかどうかという確認作業なのだろう。私が私でいることに意味があるのかはわからないが、私の返事に安心したような顔をする折原くんの反応からして、それは悪いことではないのだろう。世界からみてどうなのかは知らないが、少なくとも折原くんにとっては。

「私はあなたのものにはならないけど、私は私以外の物にはなりませんよ。折原くんが折原くん以外の物にならないのと同じようにね。」

私は、変わらないということ以外、彼に愛を示すことが出来ない。彼に心を動かされ、変化していく人間が羨ましくてたまらないが、私は決して、そんな彼らにはなれないのだ。折原くんが言うには、私は既に私という人間の完成形であるらしい。私にはその意味を理解することが出来なかったが。

まあ、羨ましくとも、私は彼らになりたいとは思わない。折原くんに愛されているのは彼ら、または彼女らだけではない。完成してしまった人間の私も例外なく、彼に愛されていた。それも、完成してしまったばかりに、特別に。完成してしまったばかりに、究極に。私は彼に愛されていた。

結論から言えば、互いが互いのものにならずとも、私は、どう足掻いても幸せになるしかないのである。だから私は、せめて彼が変わってしまわぬよう、同じ質問を繰り返すのだ。

彼が、『君の物になってあげる』なんて言ってきたら、とりあえず私は死のう。



2011/08/09
昔の私、今だって稚拙な文章かいてるのに尚更稚拙で顔からファイヤーですね。
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