愛しすぎた男/坂田
※出血などの表現はございませんが、微狂愛風味ですので、閲覧は注意してください
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「坂田、痛い」
苦しいくらいに抱き締められた。殺されるんじゃないかと思った。
「なんでどっか行くんだよ」
「坂田の愛が鬱陶しいから」
坂田銀時の頭のネジが外れたのはいつの事だったろう。
妹みたいに可愛がってた私が、ろくでもない男に引っ掛かり、よりにもよってそいつに処女を捧げてしまったときだったろうか。
坂田に泣きついたら、坂田が怖い顔をしてうちを出て行こうとして、このままじゃあの人を殺しかねないからって、私は彼を止めた。
後ろから抱きついて、行かないで。という台詞を喉の奥から必死で絞り出せば、坂田は足を止めて、振り向き、私を抱き締め返して、それから
それから、彼はとても、過保護になった。
だから私は三年前にかぶき町を出た。坂田が壊れそうだったから。
「ねえ、たまたま会えて良かったね。で、なんで終われないの?」
「そりゃ、お前が危なっかしいからだろ」
「三年一人で暮らせた。旅できた。私はもう平」
気、という言葉は、彼の喉に飲み込まれて行った。
深いキス。ああ、身の危険を感じる。そりゃあ、坂田はあの人みたいに私をポイ捨てにはしないだろうけど。逆に怖い。
「なに、すんの」
「もう出てくな。いちいち居場所探るの大変だから」
「はい?」
その一言で、恐怖心が増した。なんかそれって、三年間私がどこにいたか知ってるみたいじゃないか。
「さぐ、探るって、なに」
「あァ?気にしなくていいんだよ。とりあえず、布団は俺と一緒でいいよな。今更別にする事もねェだろ」
「坂田」
「昔みたいに銀時でいいっつってんだろ?よそよそしく呼ぶなよ」
心臓が大きく脈打つ。手遅れだったのか。いや、壊れるからと言って出て行ったのが逆に仇になってしまったのかもしれない。
違う。私の心拍数が上昇しているのは、そんな理由などでは、ない。
「ぎん、とき」
私は、彼が壊れてくれたのが、嬉しかった。
私の頭に辛うじて残っていた最後のネジが無くなった気がした。
まあいいやって思ってしまって、私が堕ちていく、どこまでも、どこまでも。
私は彼の身体をきつく抱き締め返した。
「銀時、ね、銀時」
私、あなたに止めを刺すために、出て行ったの。
完全に壊れたら良いって思ってた。壊してしまいたかった。
ねえ、知ってた? 私あの人にもわざと抱かれたのよ。
追い掛けてもらうために、私は逃げ出したの。
「私ね、壊したいくらい、あなたが好きよ」
「知ってる」
この胸の高鳴りは、間違いなく歓喜によるものだ。
私が先に壊れていた。私はいつ壊れたんだろう。そんなの、思い出さなくてもわかるけど。
この銀色を初めて見たとき、私はぶっ壊れた。
幼い時に、迷い込んだ戦場でこの銀色を見て、私あの人の隣で死にたいって思った。だから、戦争が終わってから、私は狂ったように彼を探した。
否、ように、なんかじゃなく、私は彼に狂ってた。
追い掛けて、見つけて、彼の大切になる為に、私はどれだけのものを犠牲にしただろう。
犠牲なんて、思ったことないけど。だって私は彼が欲しかったから。
彼だけが欲しかったから。
私を抱き締めて離さない彼に、安心する。
私が壊れたんだから、あなたも壊れてよって、私はずっと前から思っていたのだ。
「もう、逃げるなよ」
「うん。もう、大丈夫。平」
そして、その文字はまた彼の喉の奥に消えて行く。
2011/08/06
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