青々とした/沖神
「いっ」
教室で山崎と会話をしていると、後頭部にコンビニの袋が投げつけられた。
「いってーな、何しやがんでィ」
「手が滑ったアル。返せヨ」
そう言われたので、全力で投げ返してやれば、予想通りあっさりと避けられる。
そんなわけで、缶ジュースらしきものが入っていた袋は、チャイナ娘の横を通過して、こちらに向かって歩いてきていた、クラスメートの顔面にぶち当たった。
多分、チャイナもそれを狙っていたのだろう。そして、俺もヤツに当たるところまでを予想していたわけで。
俺達は示し合わせたかのように、二人で教室を飛び出した。
「あの土方さんの顔見やしたかィ?」
「後ろ向いてたから見れなかったネ」
「あー、まあ、そうだろうねィ。すげー顔してやしたぜ」
屋上の日陰で二人ならんで青い空を見上げながら、そんな会話をする。
暑いからか、チャイナ娘が、スカートをパタパタと動かすので、俺の理性はぐらぐらと揺れる。しかし結局は暑いせいで、そんな気も起こらなかった。
「天気良いですねィ今日は」
「昨日は雨が降ってたのにな」
不愉快そうに言うチャイナ娘に首を傾げる。梅雨がまだ明けていないため、昨日どころか、一昨日もその前も雨は降っていた。
しかし彼女の口振りからして、昨日が雨だったというが重要らしい。
しばらく思考を巡らせてみれば、思い当たる節は簡単に見つかった。彼女は忘れているだろうが今日は俺の誕生日で、つまり昨日は。
「知ってますかィ?星の寿命を人間の寿命に換算してみると、織り姫と彦星は三秒に一回は会えてるんですぜ。誰かがリツイートしてやした」
「マジでか」
「その内一回くらい会えなくても問題ねえだろィ」
そう言って、体勢を少し変え、その場に寝転がる。
日陰だというのにコンクリートはそこまで冷たくない。つまりそれだけ暑いのだ。
隣に座っていたチャイナ娘が俺にならって横になろうとしていたので、腕枕をしてやろうと腕を伸ばすと、彼女は満足そうに微笑んで、俺の腕に頭を乗せた。
こんなところ、缶ジュースを顔面にぶち当てられて鼻血出してたアイツには死んでも見せらんねーな。と思う。
「人間は三秒に一回なんて会いたくても会えねーのになァ。星ってヤツは、そんだけ会える癖に伝説だのって騒がれて、贅沢者でさァ」
「お前は会いたいアルか?」
「誰にでィ」
「三秒に一回も会ってたらきっとマンネリ化するネ。夫婦も、夫が仕事してるから円満でいられるって銀ちゃん言ってたヨ」
「お前となら大丈夫だろ」
口をついて出た言葉に、つい顔を逸らす。
横目でチャイナ娘の様子を窺えば、真っ赤な顔をして、にやにやと下品に笑っていた。欲張りなヤツめ。こういう時くらいキャラクター捨てて乙女になりきれよ。
「ホンットかわいくねー女」
「お前は乙女アルナー、可愛い可愛い」
「頭撫でんなっ」
俺の頭を撫で始めた彼女の右手を掴み、誤魔化すように強引に抱き寄せる。
柔らかい感触に、髪の毛から薫るシャンプーの匂い。ギリギリ保てていたはずの理性がぶっ飛びそうになったが、流石にここではまずいので、なんとか耐えた。
「暑いアル」
「我慢しろィ」
「あ。お前の誕生日プレゼント瞳孔に投げつけて置いて来ちゃったネ」
「誕生日プレゼント缶ジュースかよ」
彼女がそれを忘れていなかったことに安堵しつつも、つっこみはきちんと入れてやる。
腕の中で、もぞもぞと動き、他にもあるヨ。と俺の背中に腕を回したチャイナ娘は、俺の理性というやつが嫌いなのかもしれない。
「ここではダメだけど」
「なにがでィ」
「今日お前の家に行ってやるネ」
「……淫乱」
チャイムが鳴ったので、俺達は校内へと戻り、空き教室で授業をサボることにした。
どうせ今日の授業は期末テストの返却だけなので問題はない。
最近、こうやって二人で授業をふけることも多くなったので、大半のヤツは付き合いだしたことに気付いているだろうとも思うのに言い出せないのはやはりまだ俺が青いからだろうか。
彼女が隣にいるだけで幸せなのに、今日家に帰ってからのあれこればかりを考えてしまうのも、まあ俺が青いからなのだろう。
そして、窓から見上げた空もまた、やはり綺麗な青だった。
2011/07/08
夢にしようと思っていたのに沖神になりました。すみません。
沖田誕生日おめでとう