彼女と三つの嘘/矢野
「お、淳。久々じゃん」
道を歩いていると、中学時代の友達に話し掛けられた。
彼女は、中学の二、三年の時に連んでいたヤツで、性格はサバサバ系。つまり、女友達より男友達の多いタイプで、オレもそんな彼女の友達の中の一人だった。
「確か入ったの男子校だよね?」
「あー、まあ」
「じゃ、彼女はまだかあ」
ニヤニヤしながら話す彼女は、多分彼氏が出来たのだろう。オレは、相変わらずわかりやすいヤツだ。と、心の中でため息をついた。
というか、男子校イコール彼女がいないというのは偏見だと思う。
しかし、外れてはいないのが癪だ。何も言えない。
「そっちはどうなんだよ?」
彼女が聞いてほしいのであろう事を訊いてやった。
「どうだと思う?」
「ああ、出来たんだな」
自分から話させてやろうと思ったにも関わらず、変に出し惜しみをするので話をさっさと進めてやった。
ぶつくさと文句を垂れずに、そう!出来たんだよ!と言う彼女は、やはり以前と変わらずサバサバ系。彼氏より男前な付き合い方をしている彼女が容易に想像できる。むしろ女らしいお付き合いをしているコイツは全く想像出来なかった。
「じゃそんだけ。私コンビニ行くわ。」
「オマエの好きなアイス売り切れてたぞ」
「淳はエスパーか。まあ、飲み物も欲しいんだ。じゃあね」
そう言って、オレが来た道を歩いていく彼女。少しだけその背中を見送り、オレも歩き出した。
すると、何故か彼女が後ろからバタバタとみっともなく追いかけてくる。
運動音痴なのも変わりないようだ。まあ、まだ中学を卒業して半年も経っていないわけだから仕方がないとは思うが。
「どうしたんだよ?」
「はっ、はっ……いや、あのね、携帯のメール確認しようとしたら、間違ってたまたまスケジュール帳開いちゃってさ」
「それで、なんで走って追い掛けてくんだよ」
「あっ、淳、誕生日おめでとう!」
走ってきて、そんなことを大声で叫んで祝うなんて、運動音痴の癖に熱血なヤツ。
しかし嬉しく思ってしまったのは事実なので、一応感謝の言葉を口にしておくことにした。
「あーまあ、ありがとな」
「来年は彼女に祝って貰えるといいね!」
爽やかにそう言って、またコンビニに向かって走り出した彼女。バタバタという音が僅か五秒も経たずに止んだ。どうやら走るのを諦めたらしい。
振り向いて彼女の様子を窺ってみれば、彼女は伸びをしながら、コンビニに続く道を歩いていた。
相変わらずのがに股に、思わず苦笑する。アイツの彼氏はアレでいいのだろうか。オレなら願い下げだ。
気まぐれに振り向いたんであろう彼女と目があった。珍しくにっこりと笑っているように見えたのは、オレの目がおかしいのか、彼女が少しは女らしくなったということなのか。まあ、多分前者だろう。
止めていた足を家に向けて動かし始める。
アイツの家からコンビニまで行くのに、この道は通らないはずだから、アイツの誕生日にはオレも会いに行ってやるべきなのかもしれない。
「彼氏ができたっつーのも、嘘だったりして」
別にそれを期待しているわけではないが。
2011/06/23
矢野くん誕生日おめでとう