人物Aと物体B/秋丸


嫌いな人が多すぎてどうしようだったら良かったのか。好きな人が多すぎてどうしようだったら良かったのか。私にはわからない。

ただ、私は私じゃなかったらもっと違う意味で幸せだったんだろうな。とは思う。

今の私は、誰がいてもいなくても幸せだった。他人に依存出来ないのだ。



「秋丸くんは完全に榛名依存症だから羨ましいわ」

秋丸くんと二人きりの教室で、私は、まるでバカにするかのように言った。

実際はそんなつもり全くないのだけれど、○○依存症なんて、言われてあまり嬉しくはないだろう。

まあ、私の隣の席に座る彼は、私になんと言われようが傷ついたりはしないのだろうが。しかしもちろん喜ぶ様子もない。

「相変わらず意味わかんないこと言ってるし。平尾さんの方が榛名に依存してるだろ。彼女なんだし」

「バカだな秋丸くんは。私は榛名がいなくても幸せだよ?榛名がいたらもっと幸せなだけで、榛名がいなくてもあまり変わらない。でも秋丸くんが幸せである為には、というかそれ以前の問題で、秋丸くんには榛名が必要なわけじゃない?」

秋丸くんが呆れるように溜め息を吐いた。というか、実際呆れたのだと思う。

こんな考え方、自分が特別だと思っているただの中二病的な考え方だし、なにより彼氏である榛名にとても失礼だからだ。

「つまり、榛名がいなくても、その穴は誰かしらに埋めてもらえるってことなんだと思うけどさ」

「あ、そうそう。そういうこと」

「それは嘘だよ。平尾さんは、榛名がいなきゃダメだ」

秋丸が、真っ直ぐ私を否定することは珍しい。いつも、私の事なんてどうでもいいかのように、当たり障りのない事ばかり言うから、私は少し驚いた。

「なんでそう思うの?榛名がかわいそうだから?」

「違うよ」

秋丸は榛名をわりと大切にしているから、それ以外に理由なんてないと思ったのだが。

私は、首を傾げる。

「じゃあなんで」

「榛名と何かあった?」

図星だった。何かあったのかと言われれば、あった。榛名にキスされた。

その時感じた気持ちが、なんだかよくわからなかった。意味がわからなかった。嬉しいわけじゃなく、嫌悪感があったわけでもなかった。恥ずかしくはあったけど、照れたりもしたけど、それが恋人への感情なのだと思えなかった。

多分、榛名以外でもそうなんだろうな。と思って。私は榛名だから付き合ってるわけじゃないのかもしれない。とか。

秋丸くんにキスされても、嬉しくないように。付き合えば嫌悪感だってなくなるだろう。それは、浮気より酷い気持ちだと私は思う。

「まあ、あったけど。凄く些細なことだし」

「でも、それは何かあったから、そんな風に思っただけだよ」

「だからなんでそんな風に思うの」

「刑事ドラマとかで、犯人がさ、よく、なんでオレが犯人だと思うんだ?ってきくだろ?」

「はい?」

「相手が示す証拠を聞き出して、ピンポイントで否定しようとするのは、それ以外に思い当たる節が多すぎるからってこと」

「よくわからないんだけど」

「榛名もよく、嘘吐いて、それ嘘でしょ?って言うと、なんでだよって訊いてくるんだよね。知ってた?」

「それがなに。なんでそこで榛名が出てくるわけ」

「今、平尾さんがムッとしたのが、答えだよ」

更にムカついたけど納得してしまった。なるほど、私は、私より秋丸くんの方が榛名を知っているのが嫌ならしい。

教室に差し込む夕日が、私と秋丸くんを赤く染める。榛名にキスされたときから、きっと私の中はずっとこうだっただけなんだろう。今の問答は照れ隠しの延長で、私はなんてバカなんだ。

「秋丸くんってなんかムカつくわ」

「なんで」

「なんとなくだから気にしないで」

明確な証拠なんて与えてやるものか。否定されたら困るのだ。私はまだまだ、秋丸くんを敵にしていたいから。

私が自分の気持ちから逃げないように、はっきりと榛名を特別にしておくには、わかりやすい対比物が必要で、私はそれに秋丸くんを選んだ。

私はやっぱり、秋丸くんとはキスしたくない。というか彼とだけは間違っても付き合ったりしたくない。だから逆に、榛名も代わりはいないのだ。

「ま、バカとメガネは使いようってていうしね」

「いや、それなんか絶対間違ってるよ」



2011/06/24
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