ただの幸せな君に成り下がればいいよ


罪があるから罰があるのではなく、罰したいから罪を作るというのが真実なのだとしたら、世界はなんてサディスティックに出来ているのだろう。

厳罰、断罪、罰則、罪名、懲罰、贖罪、罰金、罪悪。意味なんかわからないけど、世界がもっとマゾヒスティックなら、こんな単語全部必要なくなる。

厳罰など押しつけられず、断罪などされず、罰則など知らず、罪名など与えられず、懲罰など受けず、贖罪などせず、罰金など払わず、罪悪など感じることなく生きられるわけだ。

しかし、罪も罰もなくなったら、私のような自虐主義者はどうすればいいのだろう。



私は好きな人を傷付けました。痛そうで痛々しかったその人を更に踏みにじりました。罪を与えられたかったからです罰を受けたかったのです。

でも好きな人の嫌いな人として、その心の中で一生を過ごすのは、果たして罰になるのでしょうか。

どんな形であれ覚えていてほしいという望みが叶う。なんて話じゃなくて、一生、誰かを嫌う方が体力使うし辛いじゃないですか。だからなのか、彼は私に言いました。

「お前の事は一生嫌いにならねーから」

なんでそんな顔する癖にそんなこと言えるの。罵詈雑言を浴びせてやったのに。

頭が辛いかもしんない。

ガンガンガンガン。なんか頭ん中から私を殴ってるヤツがいる。





「起きたか」

「起きた」

朝なのかはわからないが、なんとなく時間な気がしたので瞼を持ち上げた。

隣には私を嫌ってくれなかった男がいて、私達は同じベッドに寝ている。昨晩は当然R指定な出来事もあったわけで、直接的に布団の感触が身体に伝わってきた。いやらしい。

「今何時」

「六時、午前のな」

「もう明日になったわけか」

いや、もう今日だから、明日になったってだけでは表現が足りないけれど。まあ、でも彼ならわかってくれるだろう。

「じゃあ恒例の確認ね」

「おう」

「まだ、私を嫌いにはなれない?」

昨日の情事の最中には、間違えたフリをして他の男の名前を連呼してあげた。とか、そう言った嫌がらせは一切していないが、ただ、彼にとって私の存在そのものがマイナスであるはずだから、いい加減嫌いになってくれてもいい気がする。

よくわからないけれど、出会った時からなんとなく、彼は私に似ていて、全く違った。彼はプラスに生きてる私で、私はマイナスに生きてる彼。全く同じなら同族嫌悪は抱かないんだぜ。こうやってちょっと違うから同族嫌悪は抱くのです。特にプラスはマイナスが嫌い。マイナスはプラスに憧れます。それがこの世界の決まり。

プラスとマイナスじゃなく、ベクトルが真逆だったりって違いなら、お互いを嫌悪したり羨んだりという風になるのだけれど、私と彼はあくまでもプラスマイナスだから、彼は私を嫌うのが正しい。なのに

「嫌いにならねーっつったろ」

彼は不正解ばかり。バカを相手にするのは大変だ。

嫌われることは決定しているから、いきなり、不意打ちで嫌われたりしないように伏線をはっても効果はなく、逆にベタベタしても意味がなく、シカトしたって反応はなかった。まあ、シカトしてるわけだから反応されたら困るけど。

彼がベッドの中で私を抱きしめた。肌と肌が密着してるのに、なんで淫靡な雰囲気が全く醸し出されないのだろう。彼がガキっぽいせいだ。

「オレはお前のこと絶対嫌いになんねーし、いい加減諦めろよ」

「嫌だー。嫌いになってくれないと困るんだよバカー」

いや、特に何が困るってわけではないんだけどなんとなく。

彼も多分そんなことわかってる。

私が嫌いだから嫌がらせで私を嫌いにならないとか言うのかな。とか思ったこともあるけど、彼は単純だから、嫌いなモノはわかりやすく遠ざけるだろうし。

「いつも思ってんだけど」

「なに」

「なんで、嫌いになれたか。じゃなく、好きかどうかを訊かねえわけ?」

心臓にずぶりと何かが刺さった。多分彼の腕だ。

ぐじゅぐじゅと中身をかき回される。心を土足で踏み荒らされるってのより、この表現の方が私の心情に近い。

「訊きたくないから」

「なんで訊きたくねーんだよ」

「聞きたくないから」

答えを絶対聞きたくないから、私はあなたにそれだけは訊かないんだよ。

「だからそれは答え言っちゃダメ」

「ンでだよ。オレが勝手に言うのをお前が止める権利はねーだろ」

「それはまあ、無いけど。」

「つーか、お前ホントは答えわかってンだろ」

わかってるよ。答えは日本語なら二文字。英語なら三文字ですよね。嫌になるわ全く。

だってソレ勘違いだもん。で、実際にあなたの口からソレを私が聞いたら、一緒になって勘違いしちゃうし。

「          」

耳元で答えを囁かれてしまった。

頭は痛いままで、なんだか中身がドロドロ溶け出すのを感じる。多分もう何も思考出来ないなこれ。

心臓はぐちゃぐちゃのべちゃべちゃだけどなんとか機能している様子。私はそろそろ死にますよ。

「ん、私も好き」

ああ、最後の私が消える。グッバイ真実。私は虚構で生きていく。

彼の背中に腕を回して強く抱き締める。全部もうどうでもいいや。彼に嫌われたらとか、そういうことすらどうでもいい。



あーそうだ。彼に嫌われたら死ねばいいんだよ。なんで今まで思い付かなかったんだろ。



2011/06/17
なんで私頭のネジが足りない子しか書けないんだろう。私の頭のネジが足りないからですね。すみません。
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