おいしい君の煮込み方


「は?誕生日プレゼント?用意してませんよ。バカですか」

と言えるお姉ちゃんが嫌いだ。それに不服そうにしてる神威さんも嫌いだ。

神威さんはお姉ちゃんが好きで、お姉ちゃんもあんな風に言いつつ、神威さんが好きだから、ちゃんと誕生日プレゼントを用意してるに決まってる。

とりあえず世のツンデレは全滅しろ。

と、まあ、そんな事を考えながら船の中をフラフラしていたら、窓の縁に座っていた神威さんに話しかけられた。

「そういえば、千紗子からはないのかい?誕生日プレゼント」

「一応ありますけど」

「一応ってなに?」

「別に。神威さんが嬉しいものじゃないですよーって」

神威さんは地球食が好きだから、地球食を美味しく作れるように練習しただけ。

こんなに尽くしてるのに私を好きにならない神威さんが嫌い過ぎて、話してるだけでイライラムカムカ。

「で、くれないの?」

「あげますよ。夕食の時に」

「千紗子らしくないね。焦らすなんて」

「別に焦らしてるんじゃないです。焦らしプレイが大好きな変態はお姉ちゃんだけで充分です」

ツンデレってより、あの人はそういう人な気もする。Sというか。

例を挙げてみよう。例えばお姉ちゃんは、まあ私と違って、神威さんに好かれる程度に強い。つまりむちゃくちゃ強い。

なのに、同じ範囲、人数の殲滅をする場合、それにかける時間が、神威さんの二倍くらいなのだ。

その分弱いんじゃなくて、その分、じっくりいたぶっているわけで。

つまりは凄い加虐主義者なのだ。

「あ、そうだ。そういえばその変態にフられたんだよね。俺」

「告白なんかしたんですか?それこそ神威さんらしくもない」

「いや、誕生日プレゼント代わりに、飽きたからちゃんと言いますねって」

「で、お姉ちゃんは。」

「大丈夫。殺してはいないから。留めをさす前に逃げられちった」

「ヤンデレめ」

まあ、強い子供を産める可能性が果てしなく高いお姉ちゃんを神威さんが殺すわけがないんだけど。

しかしお姉ちゃんは相変わらず酷い人だ。

神威さんに気があるフリをしていたのも、こうやってフる為か。

神威さんが弱い私に話し掛けてくるなんて珍しいとは思ってはいたのだが。なるほど、彼も彼なりに傷付いているのかもしれない。

「まー、お姉ちゃん以上に強い人くらいどっかにいますよ。気を落とさないで」

「流石の俺も、強さだけで決めるなんてことはしてないんだけどね」

「性格とかですか?なら相当センス悪いですよ神威さんってば」

「性格とか見た目とかって、はっきり言えるわけじゃないんだけどね。あの変態といるのは楽しかったんだよ」

「あの変態が強いから楽しかったんではなくて?」

そこで、あ、そっか。みたいな顔をしちゃう神威さんはやっぱりまだちゃんと恋愛をわかっていないのだと思う。

だとしたら、私もまだ、諦めなくて済むかもしれない。

「そうそう、夕食が私からのプレゼントなんですよ」

「どういうことだい?」

「地球の、日本?の食事作りました。今年は、去年とかのと趣旨を変えて、家庭料理にしてみました。肉じゃがとかってやつとか」

「あり?去年までも千紗子が作ってくれてたんだね」

神威さんが、ひょいっと窓枠から降りて、早速夕食が準備してある部屋に向かって歩き出した。私はその後に続く。

そして二歩くらい歩いたところで振り向いて、神威さんが初めて「ありがとう」と言ってくれたので、私も初めて素直に言った。

「どういたしまして。誕生日おめでとうございます。神威さん」

ツンデレは、お姉ちゃんより私かもしれない。



2011/06/01
書けた!二十分ちょっとで書き上げましたよ!
神威くん誕生日おめでとうございます!
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