偏食家のくちびる


※ぬるいですが裏要素がございます。未成年者の閲覧はご遠慮下さいますようお願い致します。



─────

「榛名。ちょっとこっち向いて」

「ンだよ、そのカメラは」

「え?一眼レフだけど」

「そういうコト訊いてんじゃねーよ」

私は今、部活終了後の野球部部室で、昨日手に入れた念願の一眼レフのデジカメを使い、試し撮りをしている。

この間の夏大以降、榛名の人気が急にアップし始めたので、この試し撮りの写真で一儲けする予定だったりもするのだが、それは本人には内緒な方向で。

まあ、漫画みたいにこんな写真が売れるとは思ってないんだけどね。

だが、私の大親友が榛名の大ファンなので、アイツだけは買ってくれると信じて、私はコイツの写真を撮ろうとしているわけだ。

「いいじゃん写真くらい。減るものじゃないじゃない」

「お前絶対良からぬコトに使うつもりだろ」

「いや、あんたの写真じゃヌけないもの。そんなコトにゃ使わないよ」

「さらっと下ネタいうなっつの!つーかなんで良からぬコト、イコールそういうコトになるんだよ!」

慌てる榛名は、まあまあ可愛い。あの子がきゃあきゃあ騒ぐのはよくわからんが、まあ、モテるキャラクターかも知れない。

顔を真っ赤にしてる榛名の写真を一枚パチリ。これは売れそうだ。

「ていうか榛名。早く着替えましょうよ」

「撮る気か変態」

「まあまあ。気にしないでよ」

「まあまあじゃねーよ!ンなもん撮ってナニに使う気だ!」

「いーじゃん。減るものじゃないんだし」

「良くねえ!」

カメラに手を伸ばされたので、避けるようにカメラを持った両腕を頭の上に挙げる。

奪われるのはまだ構わないが、榛名落としたりしそうだし。それは困る。

「ンなに、カメラが大事かよ」

「大事だよ」

「そんな大事なカメラなら、学校なんかに持ってくんなっつの」

「私写真部だし」

「じゃあ野球部の部室には持ってくんな」

「えー」

ちなみに、頭の上に上げたところで、榛名は私より遥かに身長が高いから奪える筈なんだけど、そうはしない。

優しいってのとはちょっと違う気がする。だってなんか榛名にやけてるし。

「何。いいから早く着替えなよ」

「おー、じゃあそうするわ」

そう言って着替え始めた榛名は、私が写真を撮ろうと全く動じない。

恥じらいが無いのはつまらないが、ほぼ全裸とか、あの子にとっては、とてもおいしい写真だろうし、まあいいか。

そんな事を考えながら写真を撮っていると、Yシャツに腕を通しながら、榛名がこちらをちらりと見たので、私は一度動作を止める。

「オレばっか撮られるのは不公平だよな」

「は?」

「っつーわけで、お前の写真も撮らせろ」

嫌な予感がしたので逃げようとしたのだが、榛名は既に私の目の前にいた。

距離を撮るために後ろに三歩下がると、背中に冷たい感触。ロッカーがあるのだ。

榛名が私の顔の横に左腕をつく。出口はちなみに私からみて右手にあるので、ちょっとやそっとじゃ逃げられない。

「お前がソノ写真をなんに使うかは知らねーけど、ロクなことには使わねーだろうし」

「だからって何故私の写真を」

「やられっぱなしは癪だから」

この負けず嫌いめ。と心の中で毒づいて、私はカメラを奪われないように抱える。

「このカメラは貸さないし」

「携帯あるから良いけどな」

「って言うか私の写真なんて使い道ないし撮ってもすぐ消すでしょ。なら」

「消さねーよ。使い道はさっきお前も言ってたろ」

なんだそれ。私何言ったっけ?なんて思い出さなくてもわかる。

「ここは学校です。誰かきたらどうすんの」

「今日はオレが最後だから問題ねー」

「私じゃ勃たないよ」

「だからオンナがそーいうコト……つっても、そーいうコト言えるならそーいう写真くらいいいよな」

「良くない!」

間違いなく榛名は本気で言っている。このままじゃ私の大切な物がいろいろ奪われる気がする。

「じゃあ写真消すから!」

「写真撮られたっつー事実は消えねーし。じゃ、オレも消してやるから写真撮らせろよ」

「エロいのじゃなかったら……」

「は?人の着替え撮っといてなんなわけ?」

榛名の右手が私の下半身に伸びる。

片手でとっさにその手を止めようとするが、榛名の手は止まらない。

「私は榛名に触ってないし!」

「じゃあ自分でスカートめくるか?撮ってやるけど」

「だっ、やだ!それもいや!」

「それはムシがよすぎンだろ。じゃあ触る」

「この変態!」

カメラ、ちゃんと両手で持つか、どっか置かねーと落とすぞ。と、自分が触らなければいいだけなのに榛名はそう言って、私のスカートの中、太ももに手を這わせる。

変な感じがした、くすぐったいような、よくわからない感じ。

「榛名、謝るから、やめて」

「もー無理。っつーか携帯どこやったっけな」

「探してきたら?」

そして私はその隙に逃げる。

「お前逃げンだろ。じゃあカメラ貸せ」

「やだ」

「このまま続けたらオマエぜってーソレ落とすけど」

耳元でそう囁いて、榛名がそのまま首筋を舐める。

気持ち良くなんてないのに、身体が勝手に反応した。私はそれだけでカメラを取り落としそうになり、慌てて抱え込んだ。

「な?だから置いてきてやるから貸せよ。落とさねーし」

「やだ」

太ももを撫で回す手は止まりそうにない。

というか、男の子が好きでもない子とこういうこと出来るって本当だったんだな。そんなのは一部の節操なしだけだと思っていた。

榛名がそういう奴だとは思ってなかったから、少しショックだ。

「っん、」

榛名の左手が私の横から退いたと思ったら、胸を揉まれた。

そんなところを他人に触られるのは初めてだったので、羞恥心が私を襲う。

太ももから離れた右手がブラウスをはだけさせていく。カメラを抱えた手が邪魔な筈なのに、榛名は上手に、それをよけでボタンを外す。

ブラウスの中にスルリと侵入する左手。下着が僅かに下にずらされ、先端部分に与えられる刺激。

「榛名、やめっ、ん」

キスされた。実はファーストキスだったのだが、多分榛名はそれに気付いていない。

榛名の舌が、口内を丁寧におかしていく。

「ふっ、は、」

ブラウスのボタンを外し終え、私の背中に回って、今度は下着のホックを外し、次にスカートを脱がせようとするその手を私には止めることがかなわない。カメラを落とさないように抱えるだけでいっぱいいっぱいなのだ。

酸素が足りなくなって、頭がぼんやりしてきたところで漸く私の唇と胸は解放された。

同時にスカートがパサリと重力に従って床に落ちる。榛名が満足げに微笑んだ。

「やらしーカッコ」

「誰の、せいだと」

「オマエの自業自得。つーかいい加減カメラ渡しとけって。なんにせよ今の状態ならオマエすぐ逃げらんねーし、オレそろそろ携帯取りに行くけど」

でもここでカメラを渡すと、私がこの行為を続けることを了承したということになるわけで。

渡すわけにはいかなかった。

カメラを抱き締めると、榛名はため息をつき、背を向けて鞄から携帯を探し出した。私は慌てて服を着ようとするが、カメラを持ったままでは上手く着ることが出来ず、もがいている間に携帯はあっさりと発見され、榛名がこちらに戻ってきた。

「携帯見つかったけど。まだカメラ渡さねーわけ?」

「だから、消すから」

「それじゃダメだっつってんだろ」

榛名が携帯をいじり、こちらにレンズを向けた。身体を隠すためにしゃがむと、榛名が舌打ちをして、シャッターを切った。

「この写真も充分やらしーケドな」

「一枚撮ったんだからいいでしょもう」

「は?オマエ何枚も撮ってたろ。とりあえずこれ誰にも見せられたくなかったらカメラ寄越せ」

「は?ありえない!なんでそんな」

「じゃクラスのヤツに送る」

「サイッテー。なんでそんなにカメラ奪いたがるの?」

「ヤるのに邪魔だろ。ベツにオレはオマエの大事なモノ壊してーわけじゃねーし」

大切な物奪ってはいますけどね。ファーストキスとか。

私はもちろん、ああいうことは言うけど、こういうことをするのは初めてで。

「……私自身は大切にしてくれないの?」

つい、本音が口から零れ落ちた。

榛名が驚いたような顔をする。
「榛名、好きでもない子にこういうことできるんだね」

「好きじゃねーなんて言ってねーだろ」

「好きな子にこんな酷いこと普通はしない」

「それなんかビミョーに矛盾してねえ?」

「してないよ」

榛名が私と目線を合わせるように屈んで膝をついた。

私が顔を上げると、またキスされた。

今度は軽く、触れるだけのキスで、優しかった。

「榛名?」

「あのな、」

携帯を操作し、先ほど撮った写真を私に見せる。なんの嫌がらせだ。と、思ったが、榛名は私にその画面を見せたままサブメニューを開き、削除を選択した。

「え?」

「悪い」

ギュッと抱き締められた。カメラが胸に当たって痛いので、なんとかカメラを胸の前からどけた。

「オレは、お前が好きだからこういうことするんだからな」

小さな声だったけれど、その声ははっきりと私の耳に届いた。

こんな状況なのに普通に嬉しかったので、私はカメラを片手で持って、片腕だけで榛名を抱きしめ返す。

「私、ファーストキスだったんだ。実は」

「は?嘘だろ」

「嘘じゃない。んで、ファーストキスの相手と結婚するのが私の夢」

榛名の身体が、ギクリという効果音が似合うような反応をする。

友達には悪いけど、そもそも写真を撮りたかった本当の理由は、私自身の物にする為でもあったわけだし。

私にとって、榛名はきゃあきゃあ騒ぐような相手じゃなく、普通に普通なクラスメートで、好きな人だった。

「責任、とってよね」

「お前が嫌じゃねーなら」

「責任とってくんなきゃ嫌」

確認して、誓うかのように深いキスをされた。どさくさに紛れて床に私を押し倒す榛名はどうかと思うけど。まあ男の子だし。勃ってるし。

「続きするのに許可は出してないけど」

「無理。我慢出来ねー」

私のカメラも榛名の携帯も、用済みとでも言うように床に放置されている。つまり、私はカメラを置いてしまったわけで。

「榛名のバカ、変態」

許可は、いつの間にか出してしまっていた。



2011/06/30
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -