君はなにで出来てるの


私は知らない。

彼が中学時代どう傷付いたのかも、どう傷付けたのかも、なにもかも知らない。

聞くのが怖いんじゃなく、聞いて、自分の無力さを知るのが怖かった。

今の彼があるのは、当たり前だけど私のお陰じゃないから。



「千紗子?どーしたんだよボーッとして」

「あ、元希」

「前からボーッとしてるヤツだったけどよ、最近ヒドくなってねー?」

そう言いながら、私の前の席に腰掛けた元希は、それがいつからかなのかわかっているのだろうか。

わかっていなかったら相当アホだ。元希はデフォルトでアホだけど。

「最近っていつから」

とりあえず訊いてみた。

元希は少し考えるような仕草をして、にやにやと笑いながら答える。

「オレと付き合いだしてから、っつーことはオマエもしかしてオレンこと考えてるだろ」

「まあ、正解かな」

「オマエって、ホンットーにオレンこと好きだよな。」

「それも、悔しいけど正解」

素直にそう言った私に、元希は一瞬びっくりしたような表情を見せ、そしてすぐにんまりと笑った。

私はいつも素直じゃないしね。今日は所謂デレ期なのだ。

「で、オレのことってどんなこと考えてるわけ?」

「私は元希について誰よりも知らないなって」

「知りてーわけ?」

「そりゃあね」

「じゃ、オマエしか知らない情報やるよ」

どうしよう。あんまりいい情報だとは思えないのだが。

とりあえず下ネタが入ったら、全力でどつこう。

頬杖をつく榛名の表情は妙ににやけていて、なんとなくいやらしさを感じた。

「巨乳ももちろん好きだけど、実はオマエの胸がいちば」

「殴っていい?」

「喜べよ。ったく、つーか冗談だっつの」

予想通りな男。榛名元希。いや、予想外でも合ったんだけどね。まさかヤる方向の話ではなく、胸の大きさの話をするとは。中学生か。

「オマエはとっくに、オマエしか知らねーオレ知ってるしな」

「はい?」

「オレはオマエしか彼女扱いはしてねーし。だから、オマエに見せてるオレは彼女限定のオレなんだよ」

「そう、なんですか」

「ちょっとは喜べっつの。普通にハンノーされっとなんかオレが変なヤツみたいだろ」

「いや、喜んでるよ」

私は表情乏しいらしいからな。だからよくボーッとしてるように見られるというか。

元希が私の顔を凝視する。なんだこれ、なんかわからないけど、そんなに見られたら照れるのですが。今更顔も背けらんないしどうしよう。

「あ、照れた」

「う、っる、さい!」

「やっぱこの照れ顔はオレだけのだよな。つーかオマエが色々表情見せんのオレだけじゃねー?」

「そんなこと」

「あるっつの。つーかオレ以外に見せんなよ。オマエ笑った顔めちゃくちゃかわいーし」

今度は、自分でもはっきりわかるくらい、顔に熱が集まる。

元希はなぜだかそんな私を満足げな表情で見つめてから、教室に入ってきた先生に気付き、じゃあまた後でな。と言い残して席に戻っていった。

結局知りたくて知りたくなかったことは聞けず終いだし、新たに知ったことは彼の胸に対する情熱だけだったけれど、私の中で何かがストンと腑に落ちた。

今の彼があるのは、私のお陰じゃないけど、今の彼は、私の為にあるのかも知れない。

私はせっかく愛して貰えているのだし、これからの元希を一緒に作って行けばいい。



授業中にちらちらこちらを窺う元希をクラスの大半の人は知らないわけで、目があって、少し気まずそうな顔をする彼なんて、きっとみんな知りはしないのだ。

私の目に映る元希はいつでも特別で、私だけのものだから。私は足りない知識を恥じることなんてない。

逆に、元希の言う通り、私の沢山の表情は、元希の為にあるんだろう。だって私の彼氏は元希だけだから。

当たり前のことが嬉しくて、私は少しにやけてしまった。元希がそんな私を不思議そうにみている。

次の休み時間までデレ期が続いていたら、そんな話をしてもいいかもしれないと思った。



2011/06/02
最近榛名がさっぱりわかりません。しかも話もなかなか思い付かない。所謂スランプです。
辛うじて書いたけど意味わからないし……困った。
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