苦しくて苦々しい


"俺の頭は、多分可笑しいのだと思う。"
そんな話を彼女にしたら、大笑いされた。

"何を今更。"
彼女はそう言い、綺麗な素肌を晒しながら、俺の布団へと潜り込む。

生温い愛撫の果てには、何が、あるのだろう?




「あー、疲れた。」

そんな事をぼやきながら、彼女は、裸のまま、情事の最中にほどいた自分の髪を、いつも通りに2つのお団子に纏めている。

黒く長いその髪は、あの色とは程遠く、事が終わり正気に戻れば、俺はいつもそれにため息をついた。

「自分から求めておいてよく言うよ。」

俺達とは違う、黒いとは言わないが、白くない肌の色。か弱く、脆弱な、その身体。どれをとっても彼女とあいつは違う。代わりにならない代替品。全力で抱き締めて壊してしまいたい。壊してしまえば、彼女があいつでは無いという事を実感できるだろう。

「だって酷い顔してたから。」

「酷い顔してたから?」

「一時でも、忘れさせてあげようと思ったのよ。」

彼女も相当頭が可笑しい。優しさなんて俺達の間には必要ない筈なのに、平気でそれを押し付けてくる。それをされて俺が困るのを知っているのに、優しく笑いかけてくる。

「必要無いよ。」

「だよね。だってあんた、する前より酷い顔してるし。」

ごめんねー。なんて謝られても、俺にはどう反応して良いのかがわからない。好きだよ。と言われた時と同じくらい戸惑う。
これは明らかに可笑しいのだ。彼女にとっての俺だって代替品の筈なのだから。

お互いの欠けているところを埋め合った。利害が一致したといえばわかりやすいかもしれない。損得勘定だけの仲。つまり、身体だけの関係というわけだ。

「ね。団長。」

「神威。」

「はいはい。ねえ。神威。」

「なんだい?」

傷を舐め合っている。雨に打たれている、捨てられた仔犬のように、身体を温め合っている。

罪深い俺達は、お互い以外の温かみ等、これから先、ずっと望めはしないだろう。

「抱き締めて貰って良い?寒くなってきた。」

服を着ろとは言わずに、引き寄せて抱き締めた。彼女の口からもれるのは知らない人間の名前。どこかの知らない"団長"の名前。俺達はお互いに勘違いして、心地好い状況に浸っている。ほら、俺の口からもあの名がこぼれる。




あの日、泣いていた彼女を抱き締める事は、俺には許されていなかった。数年後代わりにと抱き締めた彼女は、俺の事を見ていない。

俺達は不恰好に、ギリギリのところで自己を保ち、死にかけながらも何度も朝を迎えた。互いを偽物だと理解しながらも、認識できない弱さと脆さで、彼女を何回殺し、俺は何度殺された?全ては自分のせいだと知りながら、どれ程代わりに誰かを殺し、傷付けて来ただろう。

懸命に愛したところで、賢明な判断を下すなら、俺のこの恋は許されない事だ。

彼女が無償の愛をいくら捧げたところで、痛みだけ残し、霧消してしまうだけ。

だから俺達は。



2010/08/13
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