遠くに行こうか


部活帰り、自宅のマンション付近で、後ろから誰かに呼ばれ振り返ると、そこには見知った顔の女が立っていた。

「あの、榛名さん。今日誕生日ですよね?」

「おう。なんで知ってンの?」

「隆也が言ってました。」

「嘘だな。」

そう直感した。根拠の無い勘ではない。多分、いや、間違いなく彼女は嘘をついている。

何故ならタカヤがオレの事を彼女に話すわけがない。彼女でなくともオレの話なんてタカヤがしたいわけが無いのに、彼女が相手なら尚更アイツはオレの話なんてしない。

彼女はタカヤの幼馴染みで、タカヤは彼女にかなり過保護なのだ。

「え。なんでですか?」

「タカヤがそんなこと言うわけねーもん。聞いても答えねーよアイツは。」

「ご名答です。隆ちゃんにも聞きましたけど、答えてくれませんでした。」

「で?じゃあなんで知ってンだよ?」

嘘だとわかったのは良いが、タカヤ以外で彼女にオレの情報を教えられる人間には心当たりがない。彼女とオレの共通の知り合いはタカヤだけの筈。

「実は昨日、秋丸さんがメールで教えてくれたんです。」

「は?オマエなんで秋丸知ってンの?」

「この前、榛名さんの後をつけてたら、どうしたの?って声かけられたんですよ。」

「いや、なんでオレの後つけてたんだよ。ストーカーか?」

「ストーカーじゃないです。今のは嘘で、榛名さんの友人関係洗ってた時に知り合ったんです。」

「そっちの方がストーカーっぽいんだけど。」

まあ、彼女がオレの事を大好きなのは今に始まったことじゃないので気にしない。というか寧ろ、オレも彼女が好きなわけで、大好きでいてくれるのは非常に喜ばしい事だ。

「素直に訊いてくれりゃ、答えんのによ。なんでわざわざ人伝に聞くんだよ。」

「そんな、榛名さんは忙しい方ですから、お手を煩わせるわけにはいきませんよ。」

「つーか。オレともメアド交換しろ。なんで秋丸には教えてンだよ。」

「それは嫌です。」

「はあ?なんで秋丸は良くてオレはダメなんだよ!」

思わず怒鳴ってしまったオレに、彼女はビクッと肩を揺らし、俯いてしまった。反射的に、わり。と謝り、頭を撫でてやろうと彼女に手を伸ばす。すると、その手が頭に届く前に、彼女がポツリと話し出した。

「だってメアド知ったら私、メール我慢出来なくなります。」

「ベツに、我慢しなくてもメールくらいいくらでもしてやるよ。」

「いやです。メールし過ぎて鬱陶しいとか思われたくないんですよ。」

「思わねーよバカ。」

なんだ今日の彼女は。いつもツンツンしている癖に、やけに素直じゃないか。頭を撫でようと出し掛けた左手を、彼女の後頭部へ移動する。もう片方の手を彼女の腰に回し、きつく抱き締めた。

抱き締めてみると、彼女の小ささをとても実感する。ちらりと彼女の耳を見れば、それはそれは真っ赤に染まっていた。

「オレが聞いてンだからメアド教えろ。」

「わかりましたよ。仕方ないですね。あの、とりあえず、プレゼントを渡したいので離してもらえませんか?」

「嫌だ。」

「榛名さん?プレゼントいらないんですか?」

「プレゼントはオマエでいい。」

「は?」

その声の後、小さな声で、仕方ないですね。と彼女がもう一度呟いたのが聞こえた。



2011/05/24
これも一昨年、サイト用に書いたものです。うちのヒロインは昔から病んでるな。
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