正解を引きずり出す
俺はさ。と。なんの前触れもなく、彼は語りだした。ピンク色の髪が、月明かりに照らされ、とても綺麗だ。私はそれを眺めながら、何も言わず、彼の次の言葉を待った。
「女と子供は殺さない主義なんだよ。」
「殺さない主義って程、守り通してませんけどね。」
「だから、本当ならあんたも殺したくないんだ。」
彼は私の話を聞かずに、自分の話を押し通す。まあ、いい。私も返事をして欲しかったわけではない。
私を押し倒す彼のバックに見える月に視線を移す。相変わらず月は綺麗だ。どんな状況にあっても。いつも美しく輝いている。
「でも、あんたは目障りだ。」
「あら、どうもすみませんね。」
「鳳仙の旦那じゃないけど、あんたは凄く、太陽に似てるんだよ。」
戯言だ。太陽は、私なんかと全く似ていない。日輪といったろうか。吉原の太陽は。私には、その日輪と並べるような、光も無ければ、影も無い。
似ているのだとしたら、そう感じるのだとしたら、彼にとっての太陽は、夜王にとっての太陽と全く違うのだろう。
「まさか。何を馬鹿な事を」
そう笑ってやると、彼は全く崩さなかった笑顔をようやくピクリと一瞬崩した。気に入らない。という顔を一瞬だけ見せた。
「馬鹿な事と言われても構わないよ。でも俺は、鳳仙の旦那みたいに、生きたまま自分の元に沈めるなんて回りくどい事はしない。」
「はあ、だから私を殺すんですか。へーえ。」
「何が言いたいんだい?」
「まだ、止めておきなさい。と、言いたいですね。」
殺さないで下さい。じゃなくてかい?心底つまらなそうに彼は笑う。背中にあった三つ編みがぱさりと肩の前に垂れ、私の頬をくすぐった。
「あなたは、私を殺したい理由をわかってないです。無理矢理他の理由をつけて、殺そうとしてるだけ。」
彼は、動揺しない。私の首を絞めかけている手すら、ピクリとも動かない。そろそろ彼は、気付き始めているのだ。強い子を産めるであろう、強い私を殺したいわけを。
「本当の理由なんて簡単な話なんです。聞きたいですか?あなたは、」
「俺は、あんたが好きなんだよ。」
「Excellent!正解です。よく出来ました。」
さあ、どうぞ。と彼の手に、私の手を添える。ニッコリと微笑んであげると、彼も同じようにニッコリと微笑み返してくれた。そして首が締まる。
「確かに馬鹿なことを言ったね。」
意識が途絶える直前、彼は呟いた。
「あんたには太陽も月も似合わない。影ですらない。あんたは、ただの闇だよ。」
2010/08/13