愛憎劇ハ程々ニ/臨也


折原臨也。私の高校時代の同窓生であり、大嫌いな奴だった。私の大好きな平和島くんと仲が悪い上に、私が平和島くんに告ろうとするとやけに邪魔をする。そんなわけでとにかく、高校時代の私は、そんな折原が大嫌いだった。

「あんた、新宿行ったんじゃなかったわけ。」

そんな、記憶から消し去りたい人間代表の折原が、たった今、私の目の前にいる。相変わらずムカつくくらい涼しい顔をしてやがる。つーかさ、

久しぶりだね。

とか、なんでそんな笑顔でこの私に話し掛けるわけ?アレだけ人の邪魔しておいて。しかも理由は単なる平和島くんに対する嫌がらせだよ?なんてガキだったんだ折原。

「君が池袋に戻ってきたって聞いたから、シズちゃんとの再会を妨害しに来たんだよ」

現在進行形でなんてガキなんだ折原。てかどこできいたんだよその情報。言ったの誰だよ。岸谷か?岸谷のアホか?

「私がそもそも池袋を離れたのは、平和島くんに対する愛より、あんたへの憎しみが上回ってしまったからなわけなんだけどね。」

「だろうねえ。ていうか君、まだシズちゃんが好きなの?」

「それはどうでも良いだろ。今日ここに戻ってきたのは、あんたが新宿に越したって聞いたからなんだよね。」

「どうでも良くないよ。俺にとっては最重要事項だ。まだシズちゃんが好きなの?」

ウッゼー!と叫びたくなった。しかし、人混みの中、そんな汚い言葉を叫んで品格を落としたくはないし、万が一平和島くんがここにきてしまったら、最悪な再会になるに違いない。高校時代の二の舞だ。

高校時代、何年の時だったかは忘れたが、私が平和島くんに告白することを決意したとき。この馬鹿は、折原は、私の肩に馴れ馴れしく手を置きながら、否、私の肩を抱きながら、私のその後の高校生活を地獄にしてくれるような一言をさらりと言いやがったのだ。

『紹介するよ、シズちゃん』

『ああ?』

『彼女はね、俺の─────』

思い出したくもない。死ねよ折原。そして、仲を取り持ってやると言った折原を信用したあの頃の私もいい加減にしてくれ。

高校時代、友達もろくにおらず、情報に疎かった私は、平和島くんと折原が友達(本人は否定していたけど)だということしか知らず、二人の仲が最悪だということを知らなかったのだ。

だからって、折原を信用するなんて当時の私は馬鹿すぎる。平和島くんの友達は良い人だなあ。なんて暢気過ぎる。

その後、岸谷には、君が臨也の本命か。とか言われるし、平和島くんと話してると、折原の阿呆が、ちょっとシズちゃん、人の女に手出さないでくれる?とか言って邪魔してくるし、折原のはべらせていた女の子達は私を睨んでくるし……つっても、それは噂がたってから二週間で収束したのだが。(私が公衆の面前で折原をひっぱたいたのだ。そしてその日、私は大人しい女の子という、学校用に作り上げた自身のイメージを脱ぎ捨てることになった。痴話喧嘩ー?とか言ってくる連中を片っ端から殴り飛ばしたのである。)

「正直、平和島くんに対してはもうどんな感情も抱いてないわ。あんたは嫌いだけど。」

「俺は相変わらず、君が好きだよ。」

「あーあ、私なんで人間に生まれたんだろ。」

「俺に愛される為じゃないかなあ?」

なんて最悪な理由。思ったけど口にはしなかった。言ったところで、折原は楽しそうにするだけだから、と言いたいところだが、本当はそうではない。なんとなく図星をつかれた気がしたからだ。

私が生きてきてしたことなんて、嫌われないように、人によって態度を使い分けて、他人と当たり障りのない距離をとって、ただ、折原に愛されていただけ。

平和島くんが好きだった。でも、私は何もしなかった。折原を頼って、チャンスを台無しにした。そして、折原に高校時代を台無しにされた。

折原さえいなければ、じゃない。折原を頼る事を選んだのは私だ。折原はきっと今でも同じような事を私以外の沢山の人にしてるんだろうな。異常でいびつな愛を含ませて。

「今だから言うけどね」

「何?」

「私がそもそも平和島くんのことを折原に相談したのは、折原自身にも興味があったからだよ。」

今日初めて、折原を折原と呼んだ気がする。

折原は、平和島くんは、というか、彼等を取り巻く人達は、みんな生き生きしてた。取り繕ってたりしなくて、欲望に忠実で。

その中で一番輝いていたのは、平和島くんだったけれど、私は折原にも十分興味があった。羨ましかった。私はきっと元から、折原がそういう人間だということに気付いていた。

「だから、折原に愛されるのは嫌だったけど、折原と居るのはそれなりに好きだったよ。」

久しぶりになんて素直な自分。職場では、学校にいた時と変わらない対人関係を築いているから、素直な気持ちなんて本当に久しぶりに口に出した。

「……そういえばさ」

「何?私今結構いいこと……」

「俺達まだ別れてないよね」

折原は果たして私の話をちゃんと聞いていたのだろうか。私に喧嘩を売ってるようにしか思えないのだが。

「つーかそもそも付き合ってすらいねえだろうがあああああっ!」

その叫びで私の存在に気付いてしまった平和島くんとの最悪な再会まで、残すところあと37秒。

彼の性格をわかっている癖に、相も変わらず折原に気を許してしまう自分はいい加減に学習すればいいと思う。



2011/04/28
再録。うちのヒロインは平和島くんに惚れてる率高いな
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